急に、潮の香りが恋しくなった。渋る銀ちゃんを叩いて引っ掻いて髪の毛かき回して鼻摘んで苺牛乳おごってあげる約束して、やっと二人で電車に乗った。原付に二人乗りはちょっと怖い。それに電車って楽しいよ、なんて言い聞かせて(「背中をなー、こう、ぎゅっとされたかったんだけどなァ」とか呟いていたけどそんなの無視だ)切符を買ってあげた。銀ちゃんは金欠だから仕方ない。

「銀ちゃん海見えてきたー」
「おー…」

 ガタン、ガタタン、ゴトン ゆらゆらと体を揺さぶられ、銀ちゃんは眠りの中へいってしまった。平日だからか、電車内にはちらほらとしか人が居ない。最初のうちは外を眺めているだけで暇を潰せたけれど、やはり飽きてしまった。ポケットに入っていた飴玉を口でころころと転がしているうちに私も眠ってしまった。はっと目が覚めたときには降りるはずの駅を一つ通り過ぎてしまっていて、私は慌てて銀ちゃんを起こした。いそいそと電車を降りて、(隙間あぶねーぞ、と言って手を出してくれたのはちょっと嬉しかった)歩きで海に向かう。新作のお菓子の話をすれば、銀ちゃんは口をもぐもぐさせながら相槌を打つ。食べる練習でもしてるのかな。ちょっとおもしろい。

「着いたー!」

 サンダルを脱ぎ捨て打ち寄せる波に突進。ざぱあという音と共に、ズボンはびしょ濡れになる。塩辛い海のにおい。ざん、ざざあ、どお、と轟く海の声に、どうしてかとても懐かしい気持ちになった。銀ちゃんはゆっくり歩いてくる。

「あーやっぱ濡らしたか」
「ちょっとしたら乾くよ、たぶん」
「じゃあ、ほら」

 少し離れた場所にどかっと座り込む銀ちゃん。隣をぽんぽんと叩いて(貝がらも叩いてたけど痛くなかったのかな)「こっち来いよ」と言った。言われたとおりに隣へ行くと、銀ちゃんは髪が砂まみれになるのも気にせず寝転がった。私も貝がらをどけて、ごろん、と寝そべる。日差しが柔らかくて気持ちいい。

「あったかいなァ」
「あったかいねえ」
「ズボン、乾いたら帰るか?」
「うん」

 布がパリパリになったのは、すっかり日が傾いてからだった。ちょっと待ってろ、と言った銀ちゃんを砂浜で待つ。数分後、後ろからおーいと声がして、私はそこへ走った。銀ちゃんは苺牛乳をふたつ持っていた。ほら、悠のな。にやにやしながら渡してきた銀ちゃんに、私はにやにやと笑い返しながら受け取った。はたから見れば怪しいことこの上ない。

「おごるって言ったのに」
「そーだっけか」
「うん、でもありがとう」
「どういたしまして」

 ストローをさしてちゅうちゅうと吸っていると、ぶらぶらしていた左手を、一回り大きい手が包み込んだ。横を見上げると、苺牛乳を勢いよく吸い込む銀ちゃんがいた。

「帰ったら仕事手伝えよ」
「えっ」
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