今日も私はイーノックの邪魔をしに行く。彼は必要最低限のことしか話さないから、一緒に世間話なんて夢のまた夢だろう。同じ人間同士、仲良くしたいんだけどなあ。呟いても返答は無い。カリカリと文字を綴る音のみが彼の発する音。私はつまらなくなって、水差しの水を飲んだ。暇だ。

「すまない、興味がないんでね。ってやつですかイーノック」

 カリカリカリカリ。超有名な大天使様の口癖。精一杯真似しても反応は無い。何か喋ってくれないかなあ。最後に声を聞いたのはいつだっけ。軽く50年は前だったような。ちょっと冷たすぎやしないかイーノッ君。
 私はとうとう椅子に腰掛けうとうとし始めた。妄想内では眠そうな私を見たイーノックが「自分の部屋で寝るんだ」とかなんとか話しかけてくれることになっている。だが現実は甘くない。すっかりまどろみの中へ落ちるまで、彼が口を開くことはなかった。





「……う、」

 真っ白い天井。イーノックの仕事部屋。結局声をかけてもらえなかったらしい。のろのろと起き上がり、ふと体に掛かっている毛布の存在に気づく。広げてみると、中から一枚の紙が落ちた。イーノックの字だ。慌てて立ち上がり、毛布を抱え部屋を出る。

「ろっとぉ、どうした悠、そんなに急いで」
「ちょっとどいて下さいルシフェル様!」
「教えてくれてもいいじゃないか。なあ?」
「ちょ、ほんと今無理です! さよなら!」

 途中大天使様に引き止められたが、彼に構っている暇は無い。塀を飛び越え天使達の間をすり抜け、ひとつの扉を引き抜く勢いで開けた。

「イーノック!」

 突然響いた衝撃音に、彼は吃驚した表情で此方を向く。あ、400年ぶりに目が合った。私今なら大天使様の顔面でタップダンス踊れる。

「毛布、ありがとう」
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