むき出しの肌に感じる温度は、昼間の暑さとは真逆ものだった。やけに難しかった授業内容を思い出しながら、土の上を歩く。宇宙は広がっているとか、爆発して一点に集まるとか、そういう。確か、そこからまた広がっていくんだっけ?
 光の粒が輝く空をよそに、私は月子の様子を伺った。マドンナに風邪を引かせたとなったらただじゃ済まされないだろう。彼女の雪のような肌に鳥肌がないかどうか、気づかれないように見る。幸い、皮膚はいつも通りすべすべだった。
 安堵がそのまま笑みになる。ふう、と息を吐いた瞬間、彼女の美しい顔がこちらを向いた。

「寒くない? この気温、タンクトップじゃ流石に肌寒いと思うけど……」
「大丈夫だよ」

 星空を背景にした彼女は綺麗で眩しい。僅かに下がった眉の原因は私にあると思うと、罪悪感と優越感が同時に胸の奥から湧き出た。こんな私を気にかけてくれる月子は、本当に女神だ。外見に見合う心を持っている。私はそれにいつも惹きつけられる。

「それにしても、すごい星の数」
「そうだね、なんていうんだっけ……たしか、星の林?」

 薄桃の唇から心地よい音が紡がれる。夜空に散らばる無数の星より、ずっと綺麗で美しくて愛らしい。月子はいつだって完璧だ。それ故に男子生徒は彼女に首ったけで、本当ならこうしてマドンナと二人で夜の散歩なんて出来なかった。綺麗な彼女には、毎日のようにお誘いがあるのだ。

「月子、断っちゃって良かったの?」
「梓くんのこと?」
「それもだけど、この前不知火先輩に……」
「月が煌々と照っている夜を、月夕というの」

 いきなり話し始めた月子は、微笑を浮かべていた。満天の星空……星の林を見上げる。その姿は何故か沈んで見えて、どうしたら良いのか分からなくなった。

「私、今のままで十分なの。こうして貴方と一緒にいれるだけで、月より眩しく輝ける」

 薄い瞼から涙が流れる。次第に嗚咽を漏らし始めた彼女は、駄々っ子のように首を振った。ぱらりと散った雫が頭上の星と混ざって、思わず息を飲む。こんなに美しい彼女がどうして私なんかを必要とするんだろう。泣き止ませなければと彼女に手を伸ばす。もう少しというところで、私は少し躊躇った。触れたら崩れるかもしれない。駄目だ、この人がいなくなるのは絶対に駄目。しゃくりあげる声が耳に染み付いて離れない。私が、泣かせた。でも、私が……綺麗でもなんでもない私が触れたら、この人はどうなるんだろう。汚れてしまうだろうか。わからない。

「私を、離さないで」

 思い切ってほっそりとした腕を掴んだとき、目が眩んだ気がした。彼女は光っている。こちらの目を潰すくらいの、強い輝き。彼女が告白を断り続けた理由が分かった気がした。私はもう戻れない。月子は、私がいないと輝けない。

 記憶に残った先生の声。宇宙は、少しずつ広がっている。星は月から離れていく。月は地球から遠ざかる。そうしていつか爆発する。
 それでも、彼女はこれからも地球の周りを公転するだろう。私は、月がなければ生きていけない。そうならなければいけない。限界まで引き伸ばされた私と月と星達は、

「これからは、ずっと、二人で散歩しよう?」

いつかまた、ひとつになる




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企画『あの子はきれいです』様に提出
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