初めてこの眼に映した旦那さんの姿は、草臥れた装備に煤だらけの顔といった、なんとも情けないものだった。「はじめまして、よろしくね」疲れた笑顔で言った後、ネコバァに二言三言耳打ちしてお金を渡す。チャリチャリと鳴るそれは小銭だらけで、なけなしのものであると理解した。「それじゃあ、いこうか」クエストに行くのかと思えば、旦那さんは全く逆方向、訓練所へ向かっている。矢張りまだ初心者だったのか。訓練に御供することは出来ないから、訓練所の中で待っていた。己と旦那さんの為これから使い込むであろう武器を握り締め、小さく鳴く。堪え切れなかった不安の端くれだった。これからあの人の下でちゃんとやっていけるだろうか。そもそもあの人が主人で大丈夫なのだろうか。確か、旦那さんは村を守るために配属されたハンターと聞いた。ならば己も村を守るため粉骨砕身精一杯戦わねばなるまい。はたして自分にそのような大業を成せるだろうか。


「ただいま」


 いつのまに戻ってきた主人は、疲労の濃い顔でそれだけ言った。首の辺りをくしゃりと撫でられ、堪らず喉から甘い声が出る。それを聞いた主は目を丸くして「へえ」と言った。羞恥に耐えられず顔を伏せると、旦那さんはくすくす笑った。そういえば旦那さんは女性だ。尚更僕が支えてあげなければならない。頑張らなければ。決意して顔を上げると、主人はいない。慌てて立ち上がり匂いを追うと、訓練所を出て自宅の前に居た。「遅いよー」煤や泥で汚れた顔が綻ぶ。頼りないこの人と、僕はこれから歩んでゆくのだ。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -