月明かりの差し込む部屋で赤い瞳が妖しく揺れる。さらさら揺れる金髪を目で追うと、それは私の目の前で腰を下ろした。

「まだ起きていたのか」
「は、はい」

 固唾を飲んで次の言葉を待つ。何の用があって、こんな夜更けに……いや、考えないでおこう。相手の一挙一動に気を配っていれば、それでどうにかなる筈だ。
 風間千景は暫く、ぼうっと僅かに開いた障子の隙間から外を眺めていた。流れる静寂に、少しずつ弛む身体。やはり、単なる気まぐれかもしれない。

「……手が」
「は」

 気づけば手を握られていた。突然のことに息が詰まる。逃げ、――。

「柔いな。町娘のものではない。これだけ見れば島原にいたとしてもおかしくはない」

 貴様、本当は……島原に居たのではないか。

 否定する前に、吐息が唇を撫でる。緋色の光が私の全てを麻痺させた。……たとえ声を発することが出来ても助けは呼べない。此処は、彼の屋敷だ。
 目を瞑った。これは対価だ、生を保障してもらう為の仕事だ。仕方が無い。元々好きな人と、なんて拘りなぞ無かったから。

 それでもやはり、涙は出た。頬を伝うそれを見て、風間は一瞬動きを止める。しかし、再び唇を重ねた後は、もう躊躇わなかった。





「抵抗しなかったな」
「……はい」
「……何故?」
「私の……これが私に出来る唯一ですから、仕方なかった」

 女にとって大事なものであるに違いないそれを、仕方ないの一言で済ます目の前の少女に、得体の知れぬ恐れを感じた。泣き顔に惹きつけられるように、何も考えず奪ってしまったが……。
 風間千景は頬杖をついて瞑目した。この少女には何か強大なものがついている。人間にも鬼にもない何か。新雪に足を踏み入れたことを、今更後悔した。



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