「何故食事を十分にとらない……いや、とれないのか、自分ではわかっているのですか」 「……」 「このままでは良くないということを、しっかり理解していますか。貴女は私どもに協力し、代わりに衣食住を得ている。此方に益が無くなるまで衰弱してしまえば、私たちは貴女を放り出さなければならない」 「……はい」 「良いですね?」 「はい」 厳しい天霧さんの顔が、少し緩む。厳しい言葉の裏に温い気持ちが宿っているのがありありと分かった。けれど、臆病な私はその温かさの裏を探してしまう。協定を組んだだけとしては、気をかけて貰い過ぎているのだ。 私が深く頷いたのを見て、天霧さんは再び顔を引き締めた。きつい眼差しは外へ向く。 「人は、脆い」 私は何も言えず、無言のまま座っていた。 ◇ 何故食べられないんだろう。確実にストレスではない何かが食欲を抑えているんじゃないかと、少しだけ疑っていた。可能性の範囲で。 此処が、俗に言うパラレルワールドなら、元の世界もこの世界も三次元だ。でも、もし本当に……本当にゲームの中の、二次元の世界だったなら。否定できないけど肯定もできない。けれど、もしそうなら、私が着ているこの着物も、ご飯も、草木も、全て全て何もかもが。 (次元が違うものを食べているんだ、受け入れられるわけがない) そういえば、引きこもり生活ももう何日目だろう。これといって働くこともなく、仕事を申し出ようとしても屯所とは違い女中さんのような人がいるから掃除は出来ない。放り出されるのも時間の問題だ。 『男を受け入れたことはあるか?』 ふと、いつか風間が言った言葉が浮かんできた。そして一緒に湧いた思い付きを、首を振って打ち消す。そんなことは、絶対に駄目だ。それに私の顔も身体もそれに値する価値は無い。 でも、何の寄る辺もなく投げ出され、花町に飛ばされたり殺されたり奴隷にされたりするよりかは良いのではないか。それにも首を振って、しかし、否定の言葉を思う前に声がかかった。 「悠、いるか」 「はい」 日は既に沈んでいる。低い声は先程浮かんできた言葉の主、風間千景だった。 |