新撰組のものと比べると遥かに豪華な膳。米を一口食べて、ほっと息をついた。お腹いっぱいだ。気休めにお味噌汁に口をつけたけれど、熱い液体が喉を滑っていくのが唯一感じられたことで、それ以上飲もうとは思えなかった。

「ごちそうさま」

 手を合わせて、膳を持ち上げた。





 これからどうしようか。新撰組を出てきた以上あそこに帰ることは勿論出来ないし、それどころか敵対することになる。此処にいれば、一応これから主な勢力になる攘夷派の人と共に動くわけだから安全な筈。……南雲薫も、西の鬼の頭領の元にいると知れば無闇に手出しは出来ない。よし、大丈夫。風間達の機嫌を損ねずにいれば、死ぬことは無い。

「いるか」

 誰かの呼び声ではっと我に返る。少々掠れた声で「はい」と答えると、いつもの着物を着ている風間千景が入ってきた。部屋の空気が一瞬で入れ替わる。なんでもない障子が、風間が触れた途端高級料亭のもののように見えた。

「……またそれを着ているのか」
「え?」
「奴等にしては上等なものだが……まあ良い。俺がどうにかしてやろう」
「あ、ありがとうございます」

 新しい着物を買ってくれるということか? 断った方が良い気もするけれど、見るに耐えないならむしろちゃんとしたものを着ないと失礼になる。素直に受け取っておこう。
 どことなく気品漂う鬼は、私の目の前にどっかりと腰を下ろした。情報を求められるに違いない。歴史に関わることは言えないから、答えられるのは雪村千鶴についてのみ。
 緋の目をしっかり見据える。信頼を得るには目を合わせて話さなければならないと思う。……怖いけれど、追い出されるよりましだ。
 さあ、来い。心の準備は出来た。

「貴様に聞きたいことがある」
「何でしょう」
「男を受け入れたことはあるか?」
「男を……は?」
「生娘かどうかということだ」
「あ、ああ……。まだ経験はありません」

 血を固めたような目が、ふっと緩む。冷徹な美しさが消える。予想外の質問にうろたえた私は、息も吐けず、ただ目の前の鬼を見つめるしかなかった。

「残念だ」

 それだけ言い残し、風間は席を立った。私は動けない。

 どういうことだ? 残念? 生娘? 意味がわからない。もし処女でなかったら何があったんだろう。
 やっと息を吸って、ため息をついた。どうとでもなれ。



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