焼かれて灰になるのは住み慣れた僕らの家じゃなくて、思い出だった。 失くしたのは命より大事なものだった。 「ふうん、新選組を離れたんだ。それで、どこにいったの?」 「西の鬼の一人と共に居ましたから、きっと風間の元でしょう」 「……へえ」 湿気を含んだ空気が肌に纏わりついて不快だ。報告内容も決して良いといえるものではなかったから、余計に気分が悪くなった。 「働きはまだ足りないけど、許してあげよう。千鶴はあいつに懐いてたから、十分心を痛めてるし。そうだろう?」 「はい。以前より食が細くなったようです」 「……ははっ」 窓辺に腰掛ける。 さて、これからどう動こうか。羅刹を増やしていった方が今後楽に行動できるが、あまり増やしすぎても良くない。あいつをいつ連れて行けばいいのかもわからないし……いや、風間に押し付けてしまっても良いだろうか。そうすればあいつが千鶴と接触する機会も、今の俺たちといるより増える。 「ああ、そういえば」 取り留めの無い考え事の中に、ひとつ引っかかる情報を見つけた。今まで思い出さないのが不思議な程面白いものだ。 「千鶴が想いを寄せてるのは、沖田じゃないらしいね。本当?」 「……言葉としては聞けていませんが、行動や言動からはそう思えます」 「原田? それとも土方かな」 男はゆっくり首を振った。雇い主は何故このようなことに関心を持つのか多少疑問ではあったが、仕事だからと己に言い聞かせ、答える。 「八番隊組長、藤堂平助です」 「……藤堂が、何です」 「ありゃあ明らかに惚れてたな。お前も気づいてただろ?」 最近、何故か、藍の髪を、今で言うポニーテールにした彼の鬼にやたらと話しかけられる。名前は知っているが、嫌がらせに近いこともされているので意地でも呼ばなかった。それがまた癪に障ったらしく、昨日は絡み酒とやらを経験した。 「未来がわかってんなら俺の名もわかるだろ。それなら教えなくてもいいじゃねぇか」というのが彼の言い分だが、未来だなんだの前に、礼儀というものがある。新選組の時とは違って、今回は未来を伝えるという仕事がある分人権は否定されない身分だ。風間と対面して少々気が大きくなったのか、私は今までになく心に余裕があった。 「雪村千鶴に、ですか。それは誰にだって分かるでしょう。それでは」 早足で立ち去る私の背中に、軽い笑いと暴言が投げられた。 「お前、馬鹿なんだな」 |