もし、あなたが十七歳の女子高校生で、修学旅行で京都に行くことになったら。
 気づいたら知らない場所にいたなら。見知った化け物に追いかけられたら。
 知っているキャラクターに殴られ、知っている場所で知っているキャラクターに保護されたら。
 帰る方法が、わからないとしたら。

 あなたはどんな行動をとるんだろう。しっかり計画を立てて、ちゃんと自分の道を歩くんだろうか。
 感情のままに動いて、やりたいことをやるのかもしれない。

 私は、どっちつかずの中途半端になってしまった。


「私を一緒に連れて行ってくれませんか。知る限りの情報はお教えします。……お願いします」
「……その情報とやらの価値によるな」
「……」

 早朝。天霧さんに連れられてきて、そのまま風間千景の元へ向かわされた。大きな屋敷はそれなりに手入れされており、使用人が数人いることを匂わせる。

「今後の新選組の動向、雪村千鶴の行方、羅刹の正体」

 軽く香る畳に手をつき頭を下げた。これだけです、と呟く。頼む。私にはこれしかない。
 雀が盛んに囀るのが遠くで聞こえた。

「……顔を上げろ」

 緊張で固まった首を無理矢理上げる。パキリと小さく音が鳴ったが、気にしている余裕は無かった。

 いつか見合った時とはまるで違う恐怖感が背筋を嬲った。目を逸らさなければ、逃げなければ、食われてしまう。これは本物の鬼だ。キャラクターという枠には似つかわしくないリアルさ。――この鬼は生きている。
瞳の色が血にそっくりだと気づいたのは、それだけ人の生死を見てきたからだと思う。この色はただの赤じゃない。底の見えない、深い……朱色。人間味など欠片も無かった。
 思いとは裏腹に、目玉は頑として動いてくれない。滲む汗に眉を寄せ、歯を食いしばる。少しでも視界を曇らせたくて、目を細めた。

 ピチチ、チッ

 一際大きく鳴いた鳥の声と共に、風間千景は「なるほど」と頷く。

「それなりの場数は踏んできたようだな」
「……場、数」
「一度でも血を浴びた者の目だ。本物の血潮を知る奴は、俺の瞳を見て何らかの反応をする」

 血のようだ、と思ったのは私だけではないらしい。……新選組も、同じように感じたのか。
 だが、と続ける風間に慌てて意識を戻し、口内にたまった唾を飲み込んだ。そろそろ足が痺れてきた。話はいつ終わるんだろう。

「睨まれたのは初めてだ」
「……は?」

 睨んだ? いつ?

「もういい、行け。俺は疲れているんだ」
「は、はあ。えっと、私、結局……その。置いて頂ける? のでしょうか?」

 怒らせた? いやしかし口元が少し笑っているような……気のせいかもしれない。明確な答えが欲しいけれど、この対応は保留なのか?

「ついて来たければついて来い」

 色々消化不良だが、とりあえずは安全、か?

 逃げるように慌てて部屋を出たら、すぐ外にいた天霧さんに衝突した。



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