悠達が肝試しをやっている間、山崎と土方は拷問を行っていた。この前目の前で人間が斬られる様を見せつけられたらしい悠には刺激が強すぎると判断してのことだ。
 土方は、いずれ去ってもらう人間であるから。山崎は、彼女を本当に保護したいと考えているから、詳しいことは聞かずにいた。
 思いの違いが、やがて大きな溝になるとも知らず。

「……伊東さんが、脱退?」

 そして、季節は春へ。





「どういうことですか? 何か……何かあったんですか?」
「いんや。まあ、なんつーか……元々俺らとはそりが合わなかったんだよ」
「そう、ですか」

 廊下を掃除している時、千鶴ちゃんがバタバタと走っていくのを見かけ、季節的にももしやと思い原田さんに伊東さんのことを聞いてみた。結果、予想は当たった。藤堂平助と斎藤一は此処を離れることになる。近くなる機会が減るのだ。嬉しい反面、少し寂しいと思ってしまうのは、私が人である以上仕方のないことだろう。

「平助のとこ、行かなくていいのか?」
「? どうしてですか」
「どうしてって……そりゃあ」

 原田さんは、暫し言いよどみ、一言ずつ言葉を紡いでいった。

「お前、たぶん平助と一番仲良かっただろ? よく話してたし。そういうやつが遠くに行って、下手したら二度と会えなくなるかもしれねぇ、なんて状況になったら……別れの挨拶ぐらいするもんじゃねぇのか?」
「確かに……そうですね。一番話してました」
「……それに」

 私のおざなりな返事を半ば遮るように、原田さんは話を続ける。ふと、周りを確認して、彼は私の耳元へ顔を寄せた。

「お前は平助のことが好きなんじゃねぇかって、最近思ってたんだよ。……悠、お前、女だろう」

 ひゅっ、と喉が詰まり、目が乾いた。原田さんにはバレていると薄々わかっていたじゃないか。大丈夫、彼は頼めば言いふらしなどしない。南雲薫に折檻を受けることは無い。落ちつこう。大丈夫。

「皆さんに、言わないで……皆さんに言うのは、やめてください」
「……女だってことを?」
「は、い」
「……わかった」

 息を吐いた。安堵で足の力が抜ける。突然座り込んだ私に、原田さんは慌てて声をかけた。

「おい、大丈夫か?!」
「いえ、すみません。ちょっと力が抜けてしまって」
「……ったく、少しはしっかりしろよ?」

 原田さんは、ガシガシと頭を掻いて、私へ手を差し伸べる。
 当然のようにその手を握る自分に寒気がした。



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