山崎さんと土方さんが何について話しているのか、私はそれを知る権利を持っていない。任務のことであればいいけど、もし私のことだったら。使いも満足に出来ない者を寄越さないで欲しいと要求していたら。いいや、むしろそれがいい。"薄桜鬼"から遠ざかることが出来る。――でも、寂しい。私だって普通の人間だ。皆優しいから、甘えてしまう。プログラムされた思いやりに騙される。どれだけ願ったって二次元のキャラクターと結ばれることは無いし、彼らを傷つけてしまう可能性もある。精神的に、ではなく身体的に。私が間違った行動をすれば、彼らの未来が変わってしまう。 「痛いと思うけど、じっとしててね?」 「わかってる」 千鶴ちゃんが心配そうな目で私を見つめた。見つめ返す私の顔はどんな表情なのだろう。苦しくなって、微笑んだ。彼女はぽつんと、無理はしないでねと呟く。寂しそうだった。 逃げたい、関わりたくないといいながら嫌われるようなことは一切しない自分に嫌気が差す。自分の身がかわいいから。自分が傷つきたくないから。今だって、きっと千鶴ちゃんには男として認識されてるだろうから、女の子が傷つく言葉を浴びせればいいのだ。考えれば醜い熟語の羅列をすぐに浮かべられる。力に訴えるよりずっと簡単だ。 「千鶴ちゃん」 「はい」 口を開く。喉が震え、それでも音をしぼり出そうとして、きゅっと縮こまった。 丸く大きな瞳が言葉を待ってる。心を切り刻む、鋭利で最低な言葉を。 「なん、でもない」 どうしてこんなに悲しいんだろう。 土方さんだって、私を追い出すのは新選組の為で、彼が全て悪いんじゃない。沖田さんだって彼女を守る為に牙をむいた。悪いのは雪村千鶴じゃない。南雲薫でもない。誰も、何も悪くない。唯一責めるものがあるとしたら――異分子の私。 「高橋さん、怪我が治ったら一緒にお団子食べに行きましょう」 顔上げたら、花の様な笑顔が咲いていた。それに頷いてしまうから、私は弱いのだ。 「いつまでもこのままじゃ駄目っつーのはわかってんだろ」 「しかし」 「冷静になれ、山崎。手前らしくねぇぞ」 「ですが、副長。……あまりにも惨い」 「それは」 少しずつ、変わっていく。少しずつずれていく。 「俺だってわかってる」 |