「なあ悠、夕飯俺らと食べないか?」
「……え?」
「あ、いや、無理だったら別にいいから」

 未だに部屋まで運ばれる夕食に疑問を感じていた矢先のことであった。幹部に物を運ばせて良いのだろうかと思っていたが、一緒に食べるという発想は全く無かったので驚いた。

「、……」

 いいんですか、と言いそうになって、踏みとどまる。ここで一緒に食事をすることになれば、否応なしに幹部と親密になってしまう。つまり、物語に深く関わってしまうかもしれないのだ。千鶴ちゃんと挨拶を交わす仲になっている時点でかなり危ない気もするが、これを了承してしまえば危険は更に増すだろう。
 本心を言えば、一人は寂しい。でも、相手がキャラクターという概念が抜けない私にとっては、一緒に食べようが食べなかろうが変わらないはずだ。

「ごめんなさい、遠慮しておきます」
「……そっか」

 藤堂くんはそれだけ呟いて、じゃあ飯持ってくるといって出ていった。明らかに落胆した様子に罪悪感が沸くが、仕方がないことだ。

 最近動くようになったからか、胃に詰められる物の量も増えた。食欲は相変わらずだけれど、食べる量は増えてる。山崎さんは何も言わなくなった。
 ごろりと床に寝そべり、目を閉じた。友達は元気だろうか。もしかしたら、あっちの時間は止まっているのかもしれない。そうだといい。
 ため息をついて、瞼を押し上げた。次の瞬間、何かに胴をぐいっと抱えられ、身体が宙に浮いた。

「は 何、え、ちょっと」
「なんだ、起きてたのかよ」

 首を無理やり上に上げると、快活そうに笑う短髪の男がいた。もちろん永倉さんである。いやちょっと待て、どうして運ばれてる? いや、これは運ばれてるのか? その前に私痩せたとはいえ結構な重量だったような……。

「ひ、すみません勘弁してください! 私重いので!」
「ハァ? 坊主一人抱えるくらいどうってことねぇよ」
「坊っ……ああ。いえ、あの、何か失礼をしたなら謝りますので、えっと、」

 もしかして、私について何か不審なことが分かったのだろうか。これから拷問? あの、蝋燭とか持ってたあれをやられるかもしれないということか?

「ご、ごめんなさい! 私本当に間者じゃないで、す……?」

 一つの部屋が視界に入る。たしか、幹部の人たちと千鶴ちゃんが食事をしていた場所だったような。拷問部屋って食事をする場所の近くには無いはずだ。たぶん。
 拷問はされないで済みそうだ。ほっと息をついたところで、頭上から「ついたぞー」と声がした。前を見ると、先程見かけた食事部屋。疑問が脳内を埋め尽くす。

「連れてきたぜ」

 ぽいっと投げられ、思いっきり腕を打った。まさかと思いながら顔を上げると、案の定食事前の幹部と千鶴ちゃんが揃っている。無意識に藤堂くんに目がいく。視線が合うと、彼は物凄く暗い顔をして頭を下げた。なんとなく、これが永倉さんの独断だと理解した。

「飯は、みんなで食ったほうがうめえだろ! な、千鶴ちゃん」

 急にふられた彼女は、少し裏返った声で肯定した。



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