掃除を、やり始めた。まだ自分の部屋だけだけれど、余裕が出てきたら、ちょっとずつ増やしていこうと思う。
 隊士の人たちに噂されることはなくなった。謎に包まれた人間がただの子供と分かったからだろう。実際はそうじゃないけれど。

 井戸から水をくみ上げる。この作業も最初は上手くできなくて、たまたま通りかかった永倉さんに手伝ってもらった。お礼を言って別れた後、息を切らして戻ってきた永倉さんに「もしかして、お前が高橋か?」と聞かれたのは記憶に新しい。意味ありげに頷いていたのも印象深い。何か思うところがあったのだろうか。

 桶を持って部屋に戻ると、隊士数名が何かを探していた。これも最初の頃は怖くて仕方なかったけれど、勇気を出して声をかけたら意外にも優しくて安心した。
 でもやっぱり、今でも緊張してしまうわけで。

「……、あの」
「わ、びっくりした。えっと、包帯ないか?」
「こいつすぐ汚しちまうんだぜー」
「そう、なんですか。包帯、どうぞ」
「ありがとうなー」

 ちゃんとそこにある声が、自分に礼をいう。発する人は、絵じゃない。

「どういたしまして」

 その事実には、いつまでたっても慣れなかった。




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