目が覚めると近藤さんがいた。

「え」
「あっ、横になっていてくれ」

 なに、どういうこと。
 枕元に佇む近藤さんと、その後ろに土方さんと……井上さん、だっけ。人の良さそうな笑みを浮かべる近藤さんと井上さん、そしてしかめっ面の土方さん。

「会うのは初めてだったかな。新選組局長、近藤勇だ」
「は、初めまして。高橋 悠です」

 なんとなく目が腫れぼったい。きっと酷い顔をしているだろう。新選組で一番偉い人にこんな姿を見せてしまった。羞恥で顔に熱が集まる。

「起き掛けに申し訳ない。少し聞きたいことがあってね」
「は、い」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だ」

 井上さんが柔らかい声音で言って、私は肩の力を抜く。固くならなくても良い話だ、落ち着け自分。

「事情はトシから聞いたよ。なかなか会いにいけなくてすまなんだ」
「いえ」

 不審者、しかも見た目は完全に男だ。会わないのが当然だろう。なんと言ったら良いかわからなくて、一言だけ零した。

「……単刀直入に聞こう。ここじゃない未来とは、どういうことだ?」
「……、そのままの意味です。この場所…世界といいますか……私は、この世界と違う世界の人間です。私の世界にあんな…あんな化け物は、いませんから。それから…えっと、その世界にも新選組はありましたけど、存在していたのは昔の話なんです。ここじゃない未来というのはそういう意味です……分かりづらくて、すみません」

 一瞬言葉に詰まったが、覚悟を決めて話し出した。近藤さん特有の柔らかい空気が私を包み込む。
 昨夜はふと浮かんだ言葉を口にしてしまった。結果、ひどく抽象的で信用性の薄い人物の出来上がり。情けなくて笑いがこみ上げてくる。

「成る程なあ。戻る目処は立っているのか?」
「は、いや、まだ分からないです……」
「ならここにいるといい。良いだろう、トシ、源さん」
「……ああ」
「勿論だとも」

 苦い顔の土方さんと、にこやかな井上さん。近藤さんは二、三回頷いて笑顔を見せた。

「……え、え。信じてくれるんですか?」

 軽すぎる反応に戸惑いを隠せない。いくらお人好しの近藤さんとはいえ、組織のトップに立つ人間がそうも簡単に決断して良いのだろうか。

「はっきりいって信じきることは出来ないが……この御時世だ、乱れた世を正すために君のような者が送られてきても不思議じゃないと思う。それに、私達の所為で痩せさせてしまったんだろう? それなら責任持たねばならない」
「…もし本当に未来から来たとして、みすみす逃がしちまったら、敵さんに有利な情報与えちまうかもしれねぇしな」

 疲労たっぷりの声が後方から聞こえて、たぶんそっちが本音だと思った。まあ、近藤さんからすれば、自身の言葉がそのまま本音だろう。……きっと。

「高橋君といったな。一枚の着物を着回すのは大変だろう。源さんが予備を何枚か用意してくれたから、選ぶといい。……ああいや、十分に休息をとってからで構わない」

 再び起き上がろうとした私を右手で制止すると、近藤さんは悲しい顔をした。

「すまないな」
「? いえ、此方こそすみません」

 急に謝られて、何がなんだかよく分からない。とりあえず謝ったけれど、近藤さんの顔は曇るばかりだった。







「疲れがとれたら言ってくれ。疲労が溜まったまま行動しても良くないだろうからね」

 そういって、井上さんは部屋を出て行った。ゲーム通りの良い人だ。
 目を閉じると、朝日が瞼に優しく触れた。正直ここ数日気を張ることが多く、精神面で疲れていると思う。井上さんの言葉に甘えて少し眠ることにした。


 結果、悠が起きるのは昼過ぎとなる。





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