ふ、とため息が漏れた。最近ため息をつくことが多い気がする。

 まあ、仕方ないか。こんな状況で落ち込まない方がおかしい。
 必然的に重くなる足どり。時々振り向いては歩幅を短くしてくれる"副長"の優しさが、今は苦しかった。

「おい、大丈夫か?」
「……」
「高橋?」
「えっ? あ、はい。何でしょうか……原田、さん」
「……」
「あ……すみません」

 原田さんが声をかけてくれた。返事はしたものの、機嫌を悪くさせてしまったようだ。
少し顔を歪め、「もうすぐで着く」と言い放ち目線を逸らす。
私、何かした?

 悩んでいるうちに屯所が見えてきた。

「…………。」

 無意識に、屯所を帰る場所と見なしてしまった。

(違う、私の家は、元の……)

「山崎、怪我人がいないか見てきてくれ。斎藤と原田は俺の部屋に来い……高橋もだ」
「はっ」
「……はい」

 ただで戻れるなんて思ってない。思う訳がない。

 急に目が熱くなって、鼻の奥がつーんとした。泣いたら駄目だ。今まで我慢してきたもの全てが流れ出てしまう。

「……ここに座れ」

 涙を必死で堪えているうちに、部屋に着いた。指された場所へ座ると、後ろに原田さんと斎藤さんが座る。

 沈黙が痛い。
 どこからくるんだろう。黙って屯所を出た理由?それとも、私が何者なのか……かな。

「……んな顔すんな。お前が間者じゃねぇことはわかってる」

 切れ長の瞳を細め、静かな声を出すキャラクター。フィルター越しの目線。

「なにを話せば、いいですか」

 たまらない気持ちになって、自分から声を出した。さっさと終わらせて眠りたい。何も考えずに済むところへいきたい。
 こちらが促したにも関わらず、土方さんは黙ったままだ。見かねた斎藤さんが声をかけ、やっと薄い唇を開いた。

「抜け出したのは、どうせ総司関係だろう。お前が錯乱しやすいのは十分把握してる」

 錯乱?
 確かに……そうかもしれない。いや、今はそんなことどうでもいい。この後の問いになんて答えるかが重要だ。
 ごくっと息をのみ、次に出る言葉を待った。

「正直に話せ。お前は何者だ?」
「……、」

 予想していた、でも答えられない質問。後ろにいる二人の空気がきつく締まった。

 なんて答える?
 なにを答える?
 なにを考える?
 なにをすれば?

 なにをするの?



「落ち着け。自分が持つ答えをそのまま話せば良い」

 肩口の少し後ろで声がした。目の端で、自分と同じ黒があるのを見つける。
 自然に、言葉が出た。

「ここじゃない未来の一般人です」

 案外ありきたりな答えしか出せないものだと、遠くで思った。





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