「何邪魔してくれてんの? せっかく良いところだったのによぉ」 不知火さんが拳銃をくるくる回しながら睨みつけてきた。視線で殺されそうだ。 「……、お前も戻れ、高橋」 我に返ったらしい原田さんが低い声で言った。 あれ、なんで私の名前知ってるんだ? 幹部には話してあるのだろうか。……たぶんそうだろう。 「そうはさせません。私達はその人間が何なのか知る必要がある」 天霧さんがピリピリと殺気を放った。意識が飛んでいきそうになるのを必死に我慢し、目の前の赤い瞳を見据える。 私が話すのを待っているらしい。風間千景は何も言わず見返してきた。 「……私は、」 「戻れ」 唸るような、静かな怒りを秘めた声が私を遮った。 「雪村を逃がしてくれたことには感謝するが、あんたはここにいるべき人間じゃない」 私と同じ黒衣を纏う人。かなり厳しい口調だけど、声には焦りが滲んでいる。できれば彼の言うとおり逃げたいが、このまま戻れば私も鬼に目をつけられかねない。 深く息を吸ってから口を開く。 「私は、ただの人間です。あなた達にとって利益になるものでも害になるものでもありません」 恐れと緊張から、少し声が掠れた。それでも、赤い瞳を見つめ続ける。信じてもらえるように。 ……どれくらいたったの分からない。実際は十秒にも満たないかもしれない。 風間はふと目を逸らし、鼻をならした。 「帰るぞ」 「はぁ!? 正気か?」 不知火さんが不服そうに問いかける。しかし風間はそれを無視して闇に消えていった。 「確認は済みましたし、これ以上興が乗っても困るでしょう。」 「それ、俺様のこと?」 ばつが悪そうに頭をかく不知火さん。……なんだか一番人間臭くて、少しだけ気が緩んだ。 「ちょっと待て。こっちの用は済んでねぇぞ」 声のした方を見ると、刀を構えなおす土方さんがいた。 「……生きていれば、また会う機会もございましょう。では」 闇に溶ける鬼を見ながら、悠は体中の力を抜いた。 (死ぬかと思った……。) 殺気の中に飛び込んで、主人公を怒鳴りつけ、主要キャラに注目され、睨み合い、……。 (本当に生きててよかった) ほっとする反面、死んでいればもう苦しまずに済んだかもしれない、なんて思ったり。 『せっかく貴方を守ってくれる人がいるのに、』 自分の言葉が頭の中に響く。守ってくれる人。ヒロインがピンチの時に駆けつけてくれる人。 ……私にはないもの。 駄目だ、こんな非常時に感傷に浸っている暇はない。顔を上げると、何やら難しい顔で話をしている幹部三人。 私の視線に気づいたのか、斎藤さんがこちらを向いた。それに伴い、残りの二人も私を見る。 ……すごく居づらい。 たっぷりと間を取ってから、土方さんが口を開いた。 「とりあえず任務は終わった。詳しいことは屯所で聞く」 上様の護衛は終わったのか……。後半の言葉は気にしないことにする。 勝手に屯所を抜け出したこと等説明しなければいけないだろう。 (考えなきゃいけないこと、たくさんあるな……。) 何も考えず生きてた頃が懐かしい。学校行って、部活やって、遊んで……。別に考えることなんて無かった日々。 いつか戻ってみせる。 そのために、まずは生き延びないと。 静かに歩き出した"鬼"の背を、確かめるようについていった。 |