ちゃぷ、

 水音がする。目を開こうとしたけれど、何かに押さえつけられているようで開かない。
押さえつけられ、て……

(新選組をぐちゃぐちゃにしてほしいんだ)

「ひッ……!」

(やってくれる?)

「……あ…あ……」

 怖い、痛いのはもう嫌だ。なんで、どうして、

「目を覚まし、て……?!」

 逃げないと。もう乱暴にされるのは嫌だ。もう、たくさん。

「起き上がるな! まだ身体が……!」

 焦りの混じった声が聞こえた。でも、怖い思いはもうしたくない。
 勢いにまかせて身体を起こし、ふらふらと立ち上がった。

「いっ……!」

 頭が殴られたように痛い。ガンガンする。足が自分の重みに耐え切れず、倒れこむ。

 はずだった。


「…、ふ」

 床がやけに暖かい。この時代に床暖房なんてあっただろうか。
 すると、床が急に喋った。

「……何をやっているんだ、君は」

 床じゃない。瞼を無理やり押し上げると、緑の着物の青年がいた。
 驚きで身体がすくんだ。彼の腕は確かに私を支えている。

「……おとなしくしていれば、俺たちは何もしない。寝ていろ」

 ゆっくりと身体を寝かせ、布団をかけられた。一連の行動に脅しや棘はまったく無かった。恐怖を与えるものは一つも含まれていない。
 動揺と戸惑いで、言葉が出ない。

「俺は人を呼んでくる。待っていてくれ」

 障子が開いて、閉まった。仰向けのままあたりを見回すと、部屋の隅にタオルが落ちているのが見えた。目を押さえつけていたのは、あれかもしれない。
 ふと腕に湿り気を感じてそこを見ると、転がっている桶から水が流れていた。

(看病、しててくれたのか……)

 お礼を言うべきだった。倒れた私を支えてくれたのに。放っておいても良かったのに。
 はあ、とため息をつくと、静かに障子が開いた。



 今度こそ、新選組屯所だ。
 肩に残る腕の感触と、目の前の『鬼』がそれを証明している。

「……病み上がりで悪いが、色々と聞きたいことがある」

 涙が零れそうになった。
 当たり前に読んでいたそれを、やっと聞くことができた。
 私はこみ上げるものを飲み込み、答えるべき言葉を小さく呟いた。

「分かりました」




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