「……お、起きたぜ?」

 目が覚めたと同時に目に飛び込んできたのは、土方歳三でも沖田総司でもない、

「さて、早速やっちまおうぜ」

 浪士だった。

「こいつ反応しねぇぞ。いってんじゃねーかァ?」
「そりゃー丁度いい。騒がれても困るしな」

(夢小説だったら屯所で保護されてましたー、とかなのになあ……)

「にしても変な着物だな。異国から来たのか?」

 ピピピピピ!

「!? な、なんだ今の音!!」

 携帯のアラームだ。設定してあるのは確か7:30だったから、今は朝ということか。
 朝からレイプなんて、相当溜まってるんですね。……なんて言えるわけない。
 
 冷静になってる場合じゃない。逃げるなら今だ。
 とりあえず覆い被さっている奴の急所を蹴り上げる。

「――――っ!」

 声も出せずに突っ伏す男の背を踏み越え、一目散に逃げた。悠が居たのはどうやら物置だったらしく、扉を開けた瞬間殺風景な庭が視界に広がった。
 堀を乗り越えようと思ったが、忍者でも何でもない一般人の自分には不可能だと思い直し、裏口を探そうと決めた。

 足が一歩を踏み出す度に、身体の節々がキリキリと悲鳴をあげる。唇を噛みしめ走り続けた。
 途中、後を追ってきた浪士に見つかりかけたので、咄嗟に適当な部屋に入りやり過ごした。包帯と少々汚れた浴衣を見つけたので、頂いておく。

(なんか、運いいなぁ)

 軽く息を整えながら今までのことを思う。
 さっきだって、上手く逃げられるか分からなかったし、川?に落ちたときも、溺れて死なないとは限らなかった。
 加えて、この状況。
 たまたま入ったこの部屋には窓があり、格子を外せば簡単に脱出できそうだ。盗んだ浴衣で変装して逃げる事が出来、包帯をサラシにして男装も出来る。リュックは流石に見つけられなかったが。

(このままいけば、新選組に入れてもらえちゃったりして! 運が良ければ何でも出来るよね……もしかしたら、誰かと付き合えるかも…! ただの女子高生からイケメンのお嫁さんだよ!!)

 若干にやけながら格子の様子を調べる。けっこうゆるい作りになっていて、外すのは簡単そうだ。
 少々強く格子を押す。カタン、と小さく音をたて外れた。

「どっこいせっ」

 年に合わない掛け声をあげながら、ゆっくりと地面に降り立つ。

「動くな」

 鋭い一声がふりかかる。

 どうすることも出来ず降りた時の体勢のまま固まった。空気がピリピリしていて、相手の顔を見ることがためらわれる。
 どこからか、新選組だ!御用改めである!と聞こえた。もしかしたら、目の前に居る男も新選組かもしれない。

「お前は長州の者か?」
「ち、がいます」

 声が震える。恐怖からというのもあるが、何よりこのポーズのまま喋るのが辛かった。

「顔を上げろ」

 恐る恐る首を持ち上げる。


 まあ、はっきりいって期待してなかったわけではない。もしかしたら、顔を上げたら、攻略メンバーじゃなくとも知っている顔があるかもしれない。山崎さんとか島田さんとか。
 しかし、目の前に居たのは新選組でも長州の浪士でもない、

「……おもしろい格好してるね、君」


南雲薫だった。




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