夢の中で、私は、桃果ちゃんと並んでベンチに座っていた。

「ねえ桃果ちゃん、多蕗くんと時籠さんは幸せになれたよ。二人は愛し合ってる。生きていけるんだ」
「……そう」

 桃果ちゃんが微笑む。どこまでも優しい顔だった。
 しばらく何も無い空間を見つめた後、彼女は静かに口を開いた。

「でも貴女は……」
「私は、元々愛されて生まれてきたから、大丈夫だよ」
「本当に?」
「うん。私は生きていける。だから……だから?」
「……」

 言葉が見つからない。夢だからか、桃果ちゃんの輪郭やら顔やらがふにゃふにゃになって、よくわからないものになっていく。

「大丈夫じゃないわ」

 零れた涙が膝を濡らす。自分が流したものだと気づいたのは、桃果ちゃんが優しく頬を拭ってくれた時だった。

「大丈夫じゃないのよ。失恋して、なのに誰も恨めない状況になって、泣けなくて、堪えて堪えてここまできたんでしょう? このままじゃ、貴女も透明な存在になってしまう」

 涙が溢れ、床を濡らす。何処なのかもわからないこの空間が塩水で満ちていく。桃果ちゃんの髪はゆらゆら揺れていて、その瞳には強い光が燈っていた。この色、どこかで見たことあるような気がする。でも、もうわからない。

 小さな指が、目の下を撫でた。温もりが悲しかった。


「おはよう」

 すらりとした指が目の下を撫でる。氷固まった焔の瞳に思い当たるものがあった。

「悲しい夢でも見たのかな?」

 柔らかなシーツと温かい毛布。上辺だけの笑顔が降り注ぐ。
 宇宙人なんているわけない。なら、この人は幽霊なのか。それとも。

「……よく覚えてないです」

 そっか、と返されたその言葉の内側に、小さな子供の影が見えた。



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