出された紅茶はとても良い香りがして、冷えた身体をふんわり包み込んだ。革張りのソファに背を預け、恐る恐るため息をつく。

「落ち着いた?」

 パリッとした白いワイシャツを着たピンク髪のお兄さんは、先程の緊迫感を感じさせない、柔らかい笑みをしていた。ゆっくり頷けば、嬉しそうに「そっか」と返してくれる。

「あの……」
「ストップ。先に一通り説明するから、その後で質問してくれる?」
「は、はい」

 お兄さんは向かいのソファに座り、ゆったりとした動作で足を組みティーカップを傾けた。一連の動きには気品があって、どう考えても一般人ではないと分かる。……悪い人でなければ良いという考えは、首を絞められた時点で意味の無いものとなっていた。

「ここは運命の至る場所。普通の人は来れない筈だから、君が生者かどうか確かめたんだ。僕は、とりあえず君を保護しようと思っている」
「運命の至る場所?」
「そのままの意味さ」

 空のティーカップを机に置き、微笑む男を見据えた。ワインレッドの瞳の奥に焔が揺らめいている。よく見知った色だった。沢山の人が死に、沢山の人が悲しみ、沢山の人が恨み、恐れた十六年前の出来事以来、見ることの無かった色。

「貴方は何者ですか?」

 この男は桃果ちゃんと同じだ。
 喉が鳴る。一瞬の緊張の後、男は答えた。

「幽霊だよ」
「……いや、え? は?」
「信じられないなら……そうだな。宇宙人と思ってくれてもいいよ」

 自称幽霊のお兄さんは立ち上がって、にこやかに近づいてきた。慌てて起立しようとするも、一度緊張で固まった膝は言うことを聞かない。迫る指に「ヒィ」と情けない声を出し、そのままソファに倒れこんだ。

「隈ができてる。そろそろ寝る時間だね」

 指は目の下をそっと撫でた。クスクス笑う自称幽霊は、私を抱き上げ、何処かへ歩き出す。



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