「やあ、起きた?」

 薄桃の髪の束が頬を撫でる。手でそれを払い、瞬きをした。

「……此処は」
「図書館だよ」

 視界がはっきりするにつれ、状況が掴めてくる。目前には端整な男の顔。背中は、冷たく固い感触がするし、きっと床だろう。目だけを動かし周りを見れば、壁一面にびっしりと本がつまっていた。顔の横には腕があったので、この男は自分に覆い被さっているのだと検討をつけ、一先ず落ち着いた。

「貴方は誰ですか」
「誰だろうね」
「……私は何故図書館にいるんですか」
「僕も知りたいな、それ」

 埒が明かない。起き上がろうと上半身を起こしたが、男の指で押し返されてしまった。発言する暇を与えず、そのまま男性にしては細くしなやかなそれが鎖骨から喉元までをなぞり、喉をクッと潰す。

「え、ぅ」
「ああごめんね、人間かどうか確かめたんだ」

 何だこの男。ようやく恐怖が芽生えたところで、そいつは素早く立ち上がり、「お茶でもしようか」と微笑んだ。



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