女の子に呼び出された火神くんはよくわからないといった顔で教室を出ていった。
「コレ先に帰ってて良いのかな」
「むしろ一人で考えたいでしょうし帰った方が良いと思います」
「なるほど」
あの様子じゃあ振ってしまうのだろうなあ。ああでも、年頃だし、どうだろうなあ。
「どうかな、付き合うのかな。ねえ黒子くん」
「さあ、それはボクにもわかりません」
夕焼けで橙色に染まった町を黒子くんと歩く。
今日、部活がないらしいので、久しぶりに入学式で仲良くなった同士、話しながら帰ろうということになり、ついでに話題のバスケ部エースの火神くんも誘ったのだ。結果的に二人になってしまったが。
「黒子くんはさぁ」
石ころを蹴りながら、少々デリケートな質問を投げた。
「なんで彼女つくんないの? 先週来たあのこ、結構可愛いと思うよ。性格も良いらしいし」
「直球ですね」
「回りくどいよりいいでしょ」
隣で小さく笑う彼に、今度は少し本気で聞いた。
「あのこ何回も来てるじゃん。黒子くんのこと本気で好きなんだよ、多分。バスケのことはよくわからないけど、休ませてくれるものとか必要だと思う、けど」
酷く傷ついた顔をして、それでも笑顔で、諦めませんからと言っているのを偶然見てしまった。その後黒子くんの断り文句が『今はバスケが大事』であったのを知って、どうにも、同じ女として協力したくなってしまったのだった。
黒子くんは暫く黙って、心配してくれてありがとうございます、と呟いた。
「でも、」
不意に黒子くんが此方を向く。夕日に照らされた顔に、私は息を飲んだ。
「今は、これ以上要りませんから」
強くて柔らかい笑顔は、あのこのそれによく似ていた。
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