「千鶴は、了承したよ」
「そう」

 私と風間には噂が流れていたから少し不安ではあったけれど、千鶴さんのプライドが高くなくて良かった。女の影が途絶えない男と結婚だなんて私は嫌だ。
 恋というのはすごいなあ。

「暑いね」
「夏だからな」

 膝の間に頭を埋める。恋ではなく執着だった。間違いなく。
 生ぬるい風が髪を乱した。本日は快晴。足元に落ちているであろう鋏に血痕は無い。

「夏ってこんなに暑かったんだね。溶けてしんでしまいそうだ」
「死にたいの?」

 髪の間から薫を見つめる。妹とそっくりの眼差しは遠くを見つめていた。間違っていたとしても、正すことなど出来なかった。同情出来ても彼にはなれない。

「薫はしにたいの?」

 呼び捨てたことが不快なのか、少し眉間に皺を寄せた彼は、小さく首を振った。

「ころしたいよ」



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