身体を揺すぶられて、小さく呻く。汗が滲んで気持ちが悪い。ぼんやりと靄かかった頭に聞こえるはずの無い声が響く。
 こんなことをして、恥ずかしくないのか。人として、努力もせず、のうのうと、自分は馬鹿だと、死ぬべきだとは思わないのか。屑。人の屑。真っ当に生きられないくせに生きたいなどと。他人を傷つけるしか出来ない奴は死ねばいい。美しくない奴は死ねばいい。

 テーブルに頬を押し付け顔を冷やした。袖を止める気力も無い。無造作に置かれたミネラルウォーターを横目に、私は息をついた。

「そろそろ千鶴に求婚しようと思っている」
「……そんなの毎日してるじゃん」
「ちゃんとしたプロポーズ、だ」

 のっそりと起き上がる。ペットボトルを手に取り、立ち上がった。涼しい風の吹く部屋とはおさらばか。

「さようなら。きっと、お幸せに」
「ああ」

 お前も、とは言われなかった。意地でも包帯は巻かない腕の絆創膏を、何度も見ているからかもしれない。
 金色の髪が静かに揺れている。赤い目が私を見つめた。

「妙な事はするな」

 時が止まった。こいつは何を言っているんだろう。

「傲慢だね。自信家だ」
「何とでも言え」
「千鶴さんが可哀想だ」
「俺ほどの男を夫に出来て幸せ以外の何がある」

 小さく笑って背を向けた。手を振る。ドアを開けるとむっとした空気が全身を包んだ。そのまま一歩外へ出る。もう一歩。ああ、出てしまった。これからどうやって生きていこう。
 こんなに熱いと、血液が沸騰してしまう。肌がどろどろに溶けてしまう。

 最後まで互いの名前は呼ばなかったことを、ぼんやりと思い返した。



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