折原くんに告白をした。他者には畏怖の目でしか見られなかった黒い髪と白い肌、赤い瞳が魅力的だったのだ。断られることは百も承知で想いを伝えると、予想外にも、折原くんはにっこり笑って「いいよ、付き合おう」と言った。
 相手は折原くんである以上純粋な交際をしようとは思っていないし、何かに利用されてしまうのだろうなとは思っていた。放課後、教室で折原くんを待ちながらいずれ来るであろう暗い未来を思う。じゃあ何故告白したのか。そりゃ、まさか付き合えるとは思っていなかったから。後悔はしていた。でも、期待も喜びもある。

「待った?」

 振り返る。折原くんは教室の後ろのドアから頭だけ出して笑っていた。笑顔の意味を問う前に「シズちゃんは今日休みらしい。穏やかな学校生活は快適だねぇ」とクスクス笑う。そうか、静雄くんは休みなのか。

「帰らないの?」
「……ちょっとお話したいなって」
「どうして?」
「私、折原くんのこと全然知らないから」
「ああ、なるほど」

 答えられることなら答えるよ、と言いながら、折原くんは適当な椅子に腰掛けた。基本的なことから犬派か猫派かまで質問し、答えに対して少し話が発展する。話しやすかったが、盛り上がるわけではない折原くんとの会話は、夕日の差し込む教室と相まって異様な空気を内包していた。
 長い睫毛が美しい。緋色の瞳は内側で何かが渦を巻いている。

「じゃあ、今度は折原くんが質問してよ。何でもいいよ」
「何でも?」
「何でも」

 不気味な双眸が私を捉えた。たった今まで傍観していた目の中に自分が映り込む。瞳の中の私はゆらゆら揺れていた。

「何故人は生きていると思う?」
「……え?」
「生物学的には子孫を残すためだ。でも、人間が生きている意味は?」
「……難しいこと聞くね」
「難しいから楽しいんじゃないか。……死にたくないから生きるのか? じゃあ何故死にたくないのか。死には苦痛が伴うから。それだとやっぱり生存本能、他の生物にも存するものが出てきてしまう。ねえ何故だと思う? 人は何のために生きている?」
「……つまらないよこの話。ねえ帰ろう」
「質問しろと言ったのは君じゃないか」
「だって……だって知らないんだもんそんなの」
「知らないから考えないの?」
「違う、考えたってわからないんだよ」
「そうそれだ。大半の人間は人生の意味、生きている意味を考えることさえ思いつかない。思いついたってそんなの考えても実質的な利益は無い。ちゃんと考えようとした暇人だって、結局はわからなかった」
「……」
「何で人は生きてるんだろうねぇ……」
「……」
「帰ろうか。送っていくよ」

 瞳の中の私が消える。立ち上がった折原くんは小さく微笑んで首を傾げた。「行かないの?」差し出された手に、恐怖を覚えた。私はやっと、皆がこの人間を恐れている意味を理解した。生きている意味。彼は本当に知りたくて問うたのではない。遠まわしに、私を……いや。考えすぎかも。わからない。折原くんが、私を、私たちを見下していることだけがはっきりしていた。

「やっぱり、別れよう」
「え?」
「ごめんなさい」

 立ち上がって、頭を下げる。折原くんは暫く無言だったけれど、やがて私に顔をあげるように言い、困ったような笑みを浮かべた。

「残念。君とは仲良く出来そうだったのに」

 じゃあねと手を振って、折原くんは教室を出て行った。


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