知らない制服の人が行きかう廊下で、私はスポーツドリンクの入った水筒を抱え立ち尽くしていた。試合は応援した方が良いだろうけど、場所埋まってそうだし。香水の匂いを振りまく女の子達、知らないジャージの男の子の群。なんだか落ち着かなくて、きょろきょろ辺りを見回すと、黒子くんと目が合った。試合はもうすぐ始まるはずなのに、なんで此処にいるんだろう。逸らすに逸らせない視線に困惑しつつ、彼のまあるい目が別のものへ向くのを待った。しかし、キュッとシューズが鳴って、火神くんよりは小さいけれど私よりは十分大きい身長が目の前に来る。

「試合、見に来たんですか」
「え、あ、はい」

 同い年なのに敬語だ。つられて此方まで丁寧になる。

「試合、もうすぐ始まります」
「そうだ、ね。えっと……黒子くん、もう行った方が良いよ」
「はい。そうなんですが」

 言葉が止まる。どうしたのかと顔を上げれば、彼の視線は私の腕の中へ注がれていた。五百ミリリットルの花柄の水筒、アクエリアス入り。

「それ、スポーツドリンクですか?」
「うん。アクエリアスだよ」
「ください」

 ぬっと腕が伸びてきて、普段はバスケットボールを投げている手が私の可愛い水筒をわし掴みにして攫っていった。情報処理が追いつかない私の頭に「飲み物忘れてきてしまったので」「すみません洗って返します」の二つの言葉が降りかかる。

「それでは」

 いくら黒子くんが可愛い部類に入るとしても、花柄のあれは男子の手には似合わない。ボールのように大事に抱えて走っていくのを、ぼうっとしたまま見送った。

ノットリアル


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