どこまでも行けるよ


 お菓子みたいな手を掴んで、私とメアリーの二人で、ずっと前歩いたように。水を吸わない薔薇を握ってなんでもないことを話した。少し下にある綺麗な顔を愛しいと思えるのは、きっと私だけだ。そのクリィムみたいな肌の下に薔薇色の血が流れているのは、とても不思議なことに思える。

 始まりの大きな絵画の前に立つ。手は握ったまま、一歩前に出た。ふと、隣の少女が泣いているのに気づく。真珠のような一粒が、つるりと頬を滑って床に落ちた。

「どうしたの?」
「……なまえみたいに涙が宝石になったら、向こうで売ってお金にしようと思ったの。身体ひとつあれば良いと思ってたけど、やっぱりそれだけじゃ心配だから」
「…それなら私がやるよ?」
「あはは、無理よ! だってなまえさっきからずっとにこにこしてるもん。ほっぺが溶けちゃいそう」

 白雪のような手が、私の頬をむにっとつねる。すると、何故か乾いていた瞳からぽろんとダイヤモンドが零れた。顔を見合わせ、次の瞬間大きな声で笑い出した。

「ねえメアリー」
「なあに」
「私たち、きっと、どこまでも行けるよ」
「うん」
「ずっと一緒だよ」
「うん」

 二人、絵画の前で。メアリーは私のダイヤモンドをお守りのように握り締めて、こくりこくり頷いた。

 一歩、二歩。三歩目は小さな跳躍になって、私とメアリーの身体を押し上げる。澱む色の中へ飛び込んだ瞬間、しっかり掴んでいた筈の冷たい温もりが消えた。

「え、」

 反射的に振り返る。絵画の美少女は輝く宝石を持って笑っていた。下へ下へと引っ張られる身体は彼女との距離を広げていく。もう声さえ届かない。メアリーは幸せそうに微笑んで、大きく口を動かした。

(あ、り、が、と、う)


どこへでも行けるよ


 目覚めたとき、私は何も覚えていなかった。




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