これほどうつくしい人はこの世にいるはずがないので、つまり彼女は絵画であると思った。怪しげなギャラリーに際立つ金糸がきらきらと輝き、彼女だけが浮いて見えた。
ましまろを溶かしてつくったような、柔くあまい手に黄色い薔薇が握られている。ふと香る花の色は、どうしても好きになれなかった。


ねえずっと一緒よ、ずっと一緒よ


ぽろん、ぽろんと零れるなみだは、乳白色のやさしい宝石になって床に落ちる。わたしはそれを拾い上げて、くうっと力をこめた。ぽ、ぽぽ、ぽぽぽっ 幾束ものすずらんが両腕にあふれる。赤く汚れた床にしゃがみ込む彼女に、それをそっと差し出した。
彼女は受け取らない。


もう、ひとりじゃないんだわ


少女が迷うことなく外に出て行くのを、水槽の中で見つめる。こぽりと唇の端から泡が出て、髪はゆらゆら揺れる。ちいさな魚が目の前をすいーっと過ぎた。一度燃えたらもうおしまいだというのは当たり前だけれど、わたしの海では再生するかもしれないと思った。愛からできた、涙の海なら。


ここを出ても、友達でいてね


パチン、夢がはじけた。破壊と再生を繰り返し、うつくしい身体を取り戻す。わたしは薔薇をつくれないから、ただ彼女を包み込んでいた。恭しく瞼を押し上げた絵画は、すべての虚構と今を知る。


「また置いていかれたの?」
「わたしはここにいるよ」
「おいて、かないでよ……ひどい、あんまりよ、イヴ!」
「……メアリー」


もうずっと昔に薔薇を失くした私は、涙を流す絵画になった。
メアリー、かわいそうなこ。わたしは彼女に全てをあげる。




零れたひとつは宝石になって、君を癒す花になれ




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