※男主



 叶わない恋をしている。

 終わりのない恋をしている。


「メアリー、薔薇、あげるよ」
「持ってるからいらない」
「赤色のやつだよ。メアリー」
「いらない。それと、名前を呼ばないで」

 ボクは自分の髪を少しいじって、どうしようかと思案した。折角描いたのになあ、薔薇。本棚を漁って絵の描き方を学んだから、自分でいうのも良くないけれど、結構上手いものだと思う。シャジツテキ、というのかな。深紅の高貴な花弁のひとつひとつ、想いを込めて描いた。
 ボクは格好良くないし背も低いから、なにか一つとりえが欲しくて(それもメアリーがボクのことを好きになってくれたらという自分勝手な願いからだけど)、一度も動かしたことの無い足を無理やり引きずって紙と絵の具と筆を探した。初めて描いた薔薇は、それはもうひどい出来だったから、今も引き出しの奥深くでじっとしている。植物図鑑を探して、教科書を探して、出来上がった絵を持ってメアリーを探した。受け取ってもらえたことは、まだない。
 突然動き出したボクを訝しがる人は沢山いたけど、毎日メアリーに花を届けにいく様子を見たのか、応援してくれる人も出てきた。頑張れよ、なんて声をかけてもらえた時は、嬉しくってしょうがなかった。

「ねえ、こっちを向いてよ」
「いやよ」
「お願いだから。捨てても構わないから、ボクの絵を受け取ってください」
「いや」
「おねがい」
「……そんな、そんなニセモノいらない!」

 ハラ、と床に薔薇が散って、その上に青色の水玉模様がぱたぱたと広がった。あ、だめだ。折角描いたのに。折角描いたのに。目を擦っても水玉は増えるばかりで、ボク男なのに。女の子の前で、しかも好きな子の目の前、もっと言えば告白しているときに。だめだ、止まれ、止まれ、止まれ!

 ボクから溢れた青色の絵の具は少しずつボクを溶かして、もとの泥に戻していく。メアリーの綺麗な髪の毛がふわふわ揺れて、ボクの頬だった場所をくすぐった。もうよくわからない。格好悪いなあ、ボク。
 ふと、ゆるくなった手を小さい手が押し固めた。手の平から腕まで真っ青にしながらぎゅうぎゅうと粘土を固める女の子。


 叶わない恋をしている。


「……受け取ってくれないなら、いっそ溶かしてよ」
「……作品は、壊しちゃいけないから」


 終わらない恋をしている。





『コルさま・男主でメアリー』

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