額の中で男がうっすら目を開けた。花開く瞬間を見てしまったような、なにか背徳的な気持ちになる。私の色と同じで、サファイアとは違う、翡翠の混ざった青。やわらかくうねった髪がふわ、とゆれた。

「おはよう、ギャリー」
「……おはよう」

長い睫毛が数回上下して、薄い皮ひとつにそっと守られている瞳が私を捉えた。今日はみんな静かだ。もしかしたらギャリーも出てきてくれるかもしれない。淡い期待に胸をふくらませて、私は手を伸ばす。

「ギャリー、すこし、お話しようよ」

鋭い目が、更に細くなった。すうっと通った鼻筋が冷たくて、形の良い唇は動きもしない。作品には手を触れてはいけないというルールも忘れ、私はそっとうつくしい薔薇に触れた。花占いは、もう誰もしないから。祈るようにうったえ、棘だらけの茎を握りこむ。ぷつり、ふくれて、あふれて、こぼれた。慌て始める瞳がかなしくて、宝石が落ちる。カツ―ン、カツ―ン。コン。みっつめは、革靴にあたった。

「……いいわよ。だから、泣かないでちょうだい」

大きな手が、ぽんっと頭をたたいた。ぽろん、と最後のひとつがこぼれる。私の手を掬って歩き出した背中を、私は早足で追った。足元を泳ぐちいさな魚は、四本の足に蹴られないようすいすいと避けた。

「ギャリー。私ね、メアリーを許してほしいなんていわない」

いえるわけがない。燃えて散ったって仕方がない。彼女の責任だ。

「でもね、だからせめて、ギャリーがこの世界で楽しいことを見つけられるようにしたいの。永遠にここにいろともいわないわ、いつか出られたその時、あたたかい思い出を残してほしいんだよ」

かたくて大きい手を握り返して、私は


すべて嘘だともいえないまま


わかっているのかもしれない。ギャリーは私の目を見なかった。私を信じないといっているようだ。そうだよ、出れない。でも、私と似た色がいとおしくて、かなしくて、私は友達がほしかった。



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