「南雲薫」

黒々とした髪と女のような細い首だけを見れば、雪村千鶴と双子だというのも頷ける。折れそうな身体は彼女に酷似しているけれど、その実彼女よりずっと強い(そして、脆い)。

「南雲薫」
「なに」
「此処は暖かいよ」
「へえ」

部屋に篭り書状をしたためる南雲薫を縁側へ誘った。つれない態度は平生通り。凍った眼が美しかった。

今日は小春日和

口の中で呟いて、裸足のまま土を踏む。二歩三歩と足を進め、野放図に生えた野草を引き千切った。

今日は小春日和

目前に広がる大亀のような山を見上げ、ふと童のような悪戯心が首をもたげる。

今日は逃げてしまおうか?

一歩。この茂みより先へはまだ行ったことがない。
二歩。砂利が足に刺さる。
三歩。手首を掴まれ進めない。振り向けば俯いている南雲薫がいた。

「だめ」

足の裏にちりっとした痛みを感じた。視線を向けたらとろとろと流れる朱色。

「絶対逃がさない」

喉元に置かれる指。柔らかな肌。小春日和。花曇り。風は冷たい。日は温い。

「南雲薫」

今日は小春日和
明日もきっと

「此処は暖かいよ」



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