歓迎パーティーなるものまで開いてもらった。ずっとカウンターに座っていたが、それには理由がある。恐縮していたというのもあるが、それよりも。 「酔っちまったか?」 「いえ、大丈夫です」 キッチンにはサッチがいた。まあ当然だ、コックなのだから。 「さーって、俺も飲んでくるかァ。ユウはどうする? 来るか?」 「えっと……」 「ユウは俺と飲むんだよ。な?」 背後から尋ねられ、反射的に肯定を返す。クツクツと笑いながら隣りの席へついたのはエースだった。彼の姿を目に入れる度、まだ生きているのだと安心する。 「ったく。それじゃあオッサンは退散するとするか」 口調とは反対に口元を歪めながら去っていく四番隊隊長を断腸の思いで見送り、しかし愛想は忘れず、「騒がしくしていたほうが良いのではないですか?」と隣りの男に微笑んだ。計画は少々狂ったが、エースからの信頼も得ておかないとならないわけだし、まあ大丈夫だろう。眩しすぎて、よくよく考えた上での発言が出来ないのが難点だが。 「ユウって、ワノ国の出身なのか?」 「ワノ、国?」 「いや、名前の発音がイゾウと似てた気がしたんだ。違ったか?」 ワノ国。倭の国。なるほど、日本か。一応合ってるけど、大体違う。……難しいな、なんて返そう。 「つか、記憶喪失だっけな。悪い」 「え、ああ、はい。謝らなくていいですよ」 内心冷や汗をかきながら、微笑を浮かべる。記憶喪失の設定だと忘れていた。危ない危ない。これだからエースと話すのは疲れる。 「エースさんがそう思うなら、きっとワノ国出身なんでしょう」 「……思い出そうと思わないのか?」 「……無理に思い出さなくても、ここは楽しい場所ですから。それに……ええと、紙とペン……あった」 ポケットからペンを取り、そこらに散らばっていた紙を引っ掴んで、大きく『悠』と書いた。 「名前だけは覚えているんです。これでユウと読みます。……自分が自分だとわかるものがあるなら、私は頑張れる」 太陽がある限り、私は頑張れる。太陽が輝く限り、私は歩き続ける。神様は奇跡を起こしてくれた。ここからは私自身が頑張るのだ。何をしてでも、助ける。絶対に。 絶対に。 不意に頭を撫でられ、目を見開いた。 「あんま背負い込むなよ。俺達は家族なんだ、いつでも頼ってくれ。……あ、」 慈愛に満ちた表情に引き込まれ、陽光の温もりに目を細めた。エースの思いとは裏腹に、決意は固まっていく。 何かを思い出したらしい彼は、溢れて零れそうな笑顔で問いかけた。 「エースでいいぜ。俺もユウ……あー、悠? って呼んでるしな」 なんだか哀しくて嬉しくて、涙を零さないよう目に力を入れて頷く。心中に反して、後ろからどっと笑いが起きた。 前/back/次 |