寸劇 | ナノ


 元々倉庫だった部屋を大改造して、自室として使えるようにしてくれたのは二番隊の人達だった。休憩時間を取られ不平不満を言う人もいたが、エースはそれを咎め、にかっと笑った。太陽の笑みだ。無類の魅力を持つそれに、黒い感情は溶かされる。思っていた以上に彼は眩しかった。

「へー、お前か、ユウってやつは」
「あ、はい。初めまして」
「……どっかで会ったことねェか?」
「いえ、たぶん初めて……あ、今は昔のことを忘れているので、前にお会いしたことがあるのかもしれません」

 声を掛けられ振り向くと、視界は真っ白になった。慌てて目線を上げると、リーゼントにコックの格好――サッチだ。この男がエースの生死の鍵となる。特別愛想良くしておかなければならないだろう。

「おいサッチ、なァに口説いてんだよ」
 
 声のする方へ顔を向ければ、結い上げられた日本髪と和調の化粧。たしか、イゾウとかいう隊長。

「野郎ばっかの船に来て寂しかろうと思ったんだよ」
「ナースがいるじゃねェか」

 ふっと笑う。二人は不思議そうな顔をした。

「ここは楽しいところなんですね」

 楽しくて、面白くて、時々おそろしい。私にとってここは戦場だ。一挙一動が彼の生死に関わる。何をどうしていくのか、救済の為の計画を練り上げていかなければ。
 サッチに近づこう。あの場面ですぐに動けるよう、常に傍へ。

「すみません、口説かれているとは気づかなくて。サッチさん、ですよね。それから……」
「そいつはイゾウだ。ユウ、ナース達が呼んでるぞ」
「自己紹介ぐらいさせろよエース」

 不機嫌そうな表情でエースが現れた(なにかあったのか?)。きっと脳の検査をもう一度するんだろう。最初に何度か診察を続けるとナース達に言われた。……中々の美人ぞろいだったのはどういうことだろう。選考とかありそうなくらいだった。
 行って来ます、と頭を下げ、隊長が集合したその場所を立ち去る。きっと私についての評価を話し合うだろう。それはどうでもいい。これからが重要だ。


「……めちゃくちゃ丁寧だな」
「悠、だっけ?」
「もうちっと力抜けばいいんだけどな」
「つか、親父相手に倒れなかったんだろ? ただモンじゃねェぞ」
「……それだけ何か気負ってんだろ」

 ふう、とため息をついたのはエースだった。普段は隠れている兄の顔が少し覗いた瞬間であった。



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