寸劇 | ナノ


 ベッドの上で目が覚めた。冬の初めの筈なのに、背に汗が滲んでいる。腕に人肌を感じて、飛び起きた。誰かが床に頭を打ちつけ、低く呻く。男の声だ。恐る恐る音の方を見遣って、それから息を飲んだ。目の前の光景が信じられなかった。

「エース……」

 よく知る青年が半裸で床に寝そべっていた。ただし、薄っぺらい紙ではなく、しっかりと質量を持っている。高めの体温が腕に残っていた。
 立体の人間は恐ろしい程魅力的であると、たった今知った。呼吸で揺れる背に刻まれたマークが彼の誇りを映している。幼少から今までどんなに素晴らしい感情を覚えただろう。これまでを語る背中の輝きに目が眩みそうだ。

「んぐ……ふあ?」

 目が、合った。
 一瞬、彼とわかっていながら、本当に彼なのかわからなくなった。目鼻、表情、髪の毛の一本一本に至るまで、全てリアルだ。当然だ、本当に存在しているならリアルでなくてどうする。
 ポートガス・D・エースはまばたきを二、三度繰り返した後、大声を上げて仰け反った。

「うおおおおおおお!?」
「っ……」

 こうして私は、少女漫画にはありがちな、そして現実では絶対に有り得ない出会いを果たした。




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