男性特有のごつごつした手が、口にしたら頬がとろけてしまうような料理を生み出していく。華麗な手さばきで次々に形を変えていく食材に、思わず拍手をしそうになった。 「すごい、ですね」 「惚れた?」 「惚れ惚れするような腕前です」 「ちぇっ」 包丁の動きにシュパパパッという効果音が見える。魚がみるみる丸裸になって、鍋に放り込まれた。肉や野菜と一緒に煮込まれ、きっとスープになるんだろう。口内に唾が溜まってくる。 「ユウはさ」 くつくつと煮立ってきた鍋を覗き込み一人で感動していると、横から静かな呼びかけが飛んできた。振り返ると、いつになく真面目な顔をしたサッチがいた。 「なんでしょう」 「……いや、なんでもない。これ運んでくれねェか?」 差し出された大皿を両手で持ち、ふわりと香るお酒の香りにクラクラしながらも「勿論です」と答えた。サッチは何が聞きたかったのだろう。 それにしても、朝から肉か。さすが男所帯。朝からがっつり食べれるのは、きっとエースだけではない。 「おお、美味そうじゃん。俺のとこ置いてくれない?」 「あ、イゾウさん。おはようございます。……えっと、空いてるお皿下げましょうか?」 「いや、いいよ。一緒に食おうぜ」 ### エースはユウが好きだ。これは確定。ユウはエースが好きだ。好きだが、恋愛感情なのかイマイチよくわからない。エースといるときのユウは、表情にこそ変化はないが、雰囲気は柔らかくなるのだ。……ただ、目だけが少しおかしい。心此処にあらずといった風な濁りがある。 それから、自惚れているわけじゃないが、ユウは明らかに自分に近づこうとしている。さっき、エースが好きなのにどうしてこっちに来るんだ? と聞こうとしたが、朝っぱらからする話じゃねェ。ま、人の恋路を邪魔する奴はなんちゃらって奴だな。 「全く、世話が焼ける。……ユウがもうちっと成長してたら考えたんだけどなァ」 場所は言わずもがな。漢の思考の行き着く先は結局一つだ。 前/back/次 |