「サッチさん」 「あ? おお、ユウか。エースと一緒じゃなかったのかよ」 「? まだ寝てるんじゃないですか? それより、手伝わせてくれませんか。暇なんです」 頭痛を見てみぬ振りをし、起きて厨房へ向かう。昨日の記憶が全く無いが、多分変なことはしていないだろう。 目当ての人は食材を運んでいた。手櫛で髪を整え、声をかける。計画は着々と進んでいく。 「っかしーな。……まァいいか。じゃ、これ運んでくれるか?」 手渡されたのはエプロンだった。ピンクの。 「……?」 いや、流石に彼のものじゃないだろう。似合う気もするが、サイズ的に有り得ない。……私が着る、なんて展開が起こるような。 「それ着て隣で俺を応援して欲しいなァ、みたいな」 「それだけですか?」 「え、やってくれんの?」 その時だった。部屋の入り口に誰かが立っていて、此方をじっと見ている。エースだ。声を掛けようか迷ったが、計画の為に目を逸らした。 「お、エースじゃねェか。お前昨日散々……」 「腹へったー! サッチ、飯まだかよ」 太陽のような笑み。見ているだけで暖かくなれる。不純物などひとつもない笑顔に、私は唇を噛んだ。これを壊させるわけにはいかない。 「おい、そんなことより」 「そんなことって何だよ、食わなきゃ力出ねェだろ。な、悠」 降ってきた笑顔は、柔らかくて眩しかった。そうですね、と頷き、エプロンを握り締める。なんとしても、何があっても、計画は遂行する。絶対に。 サッチは、困ったよう顔をしかめ、ふうっとため息をついていた。 前/back/次 |