「エースを救うんです」と呟いた彼女に、白ひげ海賊団船長のエドワード・ニューゲートは些か笑いを零しながら返事をした。 「わかっちゃいると思うが、あいつはそんなに柔じゃねェ」 「知ってますよ。私が言っているのはそういうことじゃないんです」 「心を、か?」 「いえ」 うすぼけた黒の瞳から光が消えていく。夜更けだから、ではない。やはり最初の読み通り、この娘はあまり良い状態とはいえない。直してやりたいとは思っているが、何分どれほど深いのか見当もつかない。娘が船を降りる日までに間に合うとは思えなかった。 この種の人間は、引き止めたって自分の意思で突き進んでいっちまう奴だ。降りると決めたら降りるだろう。病んだまま、帰るだろう。 意味もなく行われた宴会も、そろそろお開きになりそうな時刻。白ひげは一時であれ娘となる人間を船長室に呼び寄せ、他愛の無い話をしていた。ちなみに、少女は相当酔っている。 「この世にはどうにもならない事が沢山あるでしょう。どれほど強靭な肉体と精神を持っていたとしても、逆らえないものがあるでしょう。私はそういったものからエースを守るんです。そのために生まれたんです。きっと」 戯言には重過ぎる話を、白ひげは酒を呷りながら聞いていた。そして悠という人間が思っていたよりも真っ直ぐで純粋なのを悟った。 ――それ故に。 「俺にも手伝わせてもらえねェか」 「……ありがとうございます。でも」 続きを言う前に、瞼が閉じられる。床に崩れ落ちそうになったが、白ひげは腰をあげ悠の体を支えた。 「どんな奴でも、娘ってのは可愛いもんだ……」 前/back/次 |