学パロ


 長針が短針を追い抜かすのを平淡な瞳で見つめていた。鉛を擦り減らす音が退屈で仕方ない。欠伸を漏らし、緩慢な動作で腰を上げ、伸びをした。

「パンツ見えてるぞ」
「きゃールシフェル先輩えっちー」
「きゃー後輩の棒読みがこわーい」

 そこらにあったクッションをルシフェル先輩に投げると、先輩はハハハと笑って避けた。ちくしょう。

「君が私に勝てる日はいつ来るのだろうな? 私にとっては一生来ない日だが」
「先輩英語わかんないです」
「よしわかった、説明してやろう」

 軽薄な笑みを浮かべ、シカトを更にシカトし胡坐をかく人間。我が高校の先輩であり、友人だ。トランプで負けて入ることになった生徒会の仲間でもある。当初私は生徒会を忌み嫌っていたので、ルシフェル先輩のことはずっと『トラさん』と呼んでいた。由来はもちろんトランプ。彼は特別嫌がらなかったので、トラさん呼びはすぐにやめた。つまらない人だ。

「……で、ここは過去完了を」
「先輩、イーノック先輩遅くないすか」
「君は本当にあいつとそっくりだよ」
「私ついてないしあんなでかくないです」
「何の話だ」

 先輩は、はぁ――っと長いため息をついて長い足を伸ばした。眼鏡は似合っている。でもうさぎの消しゴムは物凄く似合っていない。何でこれにしたんだよ。よりによってうさぎ。うさぎうさぎうさぎ……うさぎ。寂しがりや。にんじん食べる。年がら年中発情期。それだ!

「ルシフェル先輩はれんちー」
「ああ、違ったのか。すまない、てっきり男にしかないものの事を言っているのかと」
「ル、ルシフェル、女子になんて話を……!」
「お、イーノ先輩おかえりー」

 イーノ先輩は炭酸飲料の入ったコップをお盆に載せ、慌しく部屋に乗り込んできた。お母さんみたいである。因みにこの人も生徒会役員だ。仕事は書記。イーノ先輩の字は非常に美しい。あ、名前はイーノック。長いのでイーノ先輩と呼んでいる。本人は呼び捨てで構わないらしいけど、流石にそれは出来ない。

「イーノック、なまえは普通の女性じゃあないだろう」
「そうですよ、私イーノ先輩と風呂入れますし」
「なっ」
「駄目だ、私がイーノックと入る」
「え、じゃあルシフェル先輩と入る」
「じゃあミカエルを連れてこよう」
「……む、では私は…サリエルを呼んでくる」
「ちょ、イーノ先輩つられないで下さいよ。私ん家の風呂そんな大きくないし。てかマジで入るんですか?」
「私の家に来るか? 広いぞ。猫足バスタブだぞ」
「狭いじゃないですかそれ」

 ピッ。通話終了音。ルシフェル先輩と私は音のする方を向いた。

「サリエルとナンナを呼んだが、大丈夫か?」

 輝く金髪が喜びと期待で揺れる。ルシフェル先輩は炭酸をちびちび飲み始めたので、代わりに答えておいた。

「一番良い風呂を頼む」


幸 福 体 感 論


Title by 放電


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>>蒼夜様
リクエストありがとうございました!
なんとも滾るリクエストを頂いたので、こちらも楽しんで書きました。ギャグ楽しい!
Aの兄ちゃんと鳥のおっさんは、また気が向いた時にでもフワっと書きますね。
自分なりのギャグなんですが、面白くなかったらごめんなさい。