主人公=暁美ほむら


「わたし、鹿目まどか」

 何回遡っても、変わらないのは貴女の声だけだった。何回繰り返しても、名前で呼んでくれた。声音に溶けた恐怖の質は毎回違ったけれど、度々見た笑顔はいつも優しかった。優しかった。貴女は優しい。もう、十分よ。今度は私が貴女のために頑張るから。だから、もういいの。

「契約しないと、誓って」

 今の貴女にとって、私は畏怖しかもたらさない。でも、私は。それでも私は。まどか、ねえ、貴女だけは、どうかこの極彩色の中で力を振るうことがありませんように。ただそれだけを願って、今日も私は殺戮兵器を握る。泡立つぬいぐるみからおぞましい生き物が飛び出した。時間を止めて、爆薬を撒く。轟音、後にショッキングピンクの飛沫。

「っう、なんで? ひどい……ひどいよ」
「……鹿目まどか」

 ひどい? 私は何をしたんだろう。目の前の泣き顔がいつかの貴女と混ざってく。混沌とした世界の中で、それでも目的はひとつだけだから、大丈夫。絶対に忘れない。

「契約しないと誓って。今ここで、誓いなさい」

 空色の髪を掴み、引き上げる。見せ付けるように揺らした後、放った。小さい悲鳴と息を呑む音。鈍い音と共にマスケット銃が転がる。寸分違わずぶつかったようだ。まどかが泣いている。鉄の匂いと髪の焦げる音。ああ、ああ……私、また間違えた。これじゃ駄目。悲しませてはいけない。目的だけに囚われていたらいけない。貴女の苦しみが最小で済む道を選ばなくては。少女たちの身体が散らばる大地にまどかを置いて、私は時間を飛び越える。絶叫にちかいそれが私の名前に聞こえた。

 私は、すこしおかしくなっているのかもしれない。私は間違っているのかもしれない。……いや、そんなことはない。もしそうであったとしても、今していることが罪になっても、私はやり遂げなければならないのだ。でなければ、私は一体、

なんのために。


失望が、やがて全てになるのです


Title by 白々


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>>さくら様
リクエストありがとうございました!
書いているうちにほむらちゃんが病んでしまいました……申し訳ない限りです。
夢っぽくない話になってしまいましたが、どうかこれで勘弁してやってください;
これからもよろしくお願いします!