結露して雫の滴るペットボトルを投げた。地面に落ちるかと思えば間一髪で掴まれる。音がしそうなほど見事な取り方だ。 重力に耐え切れなかった雫が、地面に散った。 「あっぶねー。もうちょっと優しく投げろよ」 「ごめん」 怪訝そうに此方を向いた男子生徒は、私の顔を見るなり切羽詰った表情で駆け寄ってきた。 「具合悪いのか?」 「ううん」 「嘘だろ」 大きな手が躊躇い無く額に当てられる。私の体温を吸い取ったその人は、急に背を向けしゃがみ込んだ。唐突な行動に思考が追いつかない。 「なにしてるの?」 「ほら、乗れ」 乗れ? 背中に? そんなの出来るわけない。体重がばれてしまう。いくら彼氏でも重さぐらいは秘密にしておかなければならない。 視界が歪む。調子が悪いんじゃなくて、ただ、涙が出そうになっただけ。 「平助くん、ジュースのお釣り」 震えるこぶしを彼に差し出す。はあ?! という叫びに怯えつつ、彼の手に五十円玉を落とした。返しておかないと忘れてしまう。 深刻な表情で私の手を見つめた後、平助くんは黙ってお釣りを受け取った。 告白は私がした。想いが募って、どうしようもなくなったときに一緒に教室の掃除を先生に頼まれた。後先考えず、勢いのままに気持ちを伝え、そして――今でも信じられないが、何故か応えてもらえた。そんなに泣きそうな顔をしていたのか……な。 好きになってくれなくていいから、せめて嫌われないように。低姿勢で接していたら、今日みたいになってしまうことが度々あった。平助くんを不機嫌にさせてしまう。私の行動はことごとく裏目に出るので、もうどうしたらいいかわからない。 別れた方がいいのかな。……でも、私は平助くんが好き。出来れば彼女のままでいたい。 ぽた、と地面に黒い染みが出来た。ペットボトルのではなく、私の目から零れ落ちた一粒。 「なまえ」 陽光を浴びて熱くなった頭に、大きな手が乗せられた。 「なまえっ」 「あ、いっ痛! や、やめてよっ」 大きな手は、そのまま優しく撫でていたかと思うと、急にガシガシと髪をかき混ぜ始めた。結構痛い。 「言葉にしてくれないと、わかんねぇよ」 涙の滲む瞳で平助くんを見る。彼もまた、泣きそうな顔をしていた。 ペットボトルはいつの間にか地面に倒れていて、砂だらけなのは想像に難くなかった。 平助君はそのキャップ部分をつまみ、立ち上がる。私もつられて立ち上がった。 「洗いにいくか」 手は自然と繋がれていている。それだけのことで涙が出そうになるのは、まだ付き合っているという自覚がないからかもしれない。 少しずつ慣れて、少しずつ話していこう。大丈夫。きっとやれる。 吐き出した溜息が二つ重なって、思わず隣を見上げた。どうやら平助くんも溜息をついたらしい。 僅かな間のあと、二人で笑いあった。 Title by 苺婦人 *** >>ちずさ様 遅くなってしまい申し訳ありません……! 待たせた割には低クオリティーという情けなさ……返品受け付けます。 リクエストありがとうございました! |