「やい、ちび」
「お前ずっと小せぇままだよなあ」
「うるさいな、ほっといてよ」

 あんたたちのためにたたかってるのに。あんたたちがかなしくならないよう、しなないよう、たたかってるのに。
 ぼろぼろ泣いたって誰も優しくしてくれなかった。これが魔法少女。これが契約。これが現実だ。
 空っぽになった身体は成長しなくなった。もちろん、私は自分がゾンビになったなんて知らない。

「キュウべぇ、まだだめなの?」
「そうだなあ……ちょっと契約するのが早かったかもしれない。……少し時間がほしい。準備しなきゃね」

 そういってどこかへ消えた生き物を、私は恨まなかった。誰も恨まなかった。そんなの神様の傍にいくような人間が抱く感情じゃない。黒い感情を必死に消して、見返りなんて期待しないで人々を助けた。世界を愛さなきゃいけない。世界を壊すものを無くさなきゃいけない。
 怒らなくなった。泣かなくなった。笑わなくなった。そんな自分を皆恐ろしい子だと言って蔑んだ。精神がおかしくなったのだと、口々に言われた。実際そうだったのかもしれない。でも、両親の言葉を思い出して、これは私のすべきことだと、信じた。――今でも、信じている。
 とうとう食べ物を口に出来なくなって、満足に戦えなくなった時。悪魔はやっと迎えに来た。

「待たせたね。行こう」

 光が全身を包む。このときのことは、よく思い出せない。只、目を覚ましたときに見た光景は、しっかり脳に焼き付いている。……あまりに素晴らしくて、自然と涙が零れた。天界の清廉さを身に受けて、両親の願いを達成できて、そして……。私は両手で顔を覆った。明らかに身長が伸びていたのだ。

「君が悠か。よろしく」

 だから、シースルーにジーパンの大天使様を、数秒無視してしまったのは許して欲しい。





 神と対面は出来なかった。ルシフェル様から、「唯一君の未来だけが見通せないらしい。他にも見通せない者はいるようだが……まあ、近く来てくれそうなのがお前だったから召し上げたんだと。良かったじゃないか。無理せず頑張ってくれと言っていたよ」と神のお言葉を伝え聞いて、何がなんだかわからず、とりあえず泣いて喜んだ。神から言葉を頂けるなんて! といった具合だ。

「悠!」

 声をかけられて、振り返った。相手がイーノック様だとわかっていたので、なるべく気品のある笑みを浮かべる。これ、ちょっと疲れるんだど……まあ仕方ない。

「ルシフェルが下界の食べ物を持ってきてくれたんだ。一緒に食べないか?」

 ふわふわの金髪を揺らしながら尋ねる青年に、しっかりと頷いた。心臓はバクンバクンと世話しなく動いているが、心臓病の類でないらしいので気にしないことにした。どれもこれもルシフェル様に相談してしまっている。また改めて御礼を言わないといけない。

「それから、少し話があるんだ」

 一際高く鳴ったそれに、思わず息をのんだ。唇を少し噛んでから、ゆっくり返事をする。

「わかり、ました」
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