心臓を抉られるような痛みに顔をしかめ、呻く。膝をついた私の前にふわりと落ちて来たのは、きっとキュウべえが言っていたソウルジェムというものだろう。白く光るそれを手のひらで受け止め、抱き締める。これが私の力の源泉だ。

「魔女を倒すと、グリーフシードが手に入る。その時君のソウルジェムは少し淀んでいるはずだ。グリーフシードでその淀みを取り去ることが出来る。あと、そうだなあ……」
「ねえキュウべえ、私、今まで何かと戦ったことないよ。どうすればいい?」

 最低限教えるべきことを考えている生き物に、幼い子供は容赦なく質問を浴びせる。だが生き物に気分を害した様子はなく、淡々と答えを述べた。

「心配はいらないよ。君ほどの魔法少女なら、体が勝手に動いてくれる」
「ふーん」
「……まあ、その場で教えていった方がいいね。とりあえず、君の願いを叶える前に少し練習をしようか」

 ゆらゆらと尻尾を揺らし、生き物は窓から飛び降りた。慌てて上着を羽織り部屋を出る。ふと小指に小さな指輪を見つけた。白い石が嵌め込まれている。「はやくおいで」頭にぐわんと声が響き、我に返った。そうだ、追いかけないと。
 暗い居間を通り、玄関に一つだけある靴に足を突っ込んだ。ポケットから鍵を出し、急いで鍵穴に差し込む。

「いってきますっ」

 誰もいない部屋に、子供特有の明るい声。返事をする者も引き止める者もいなかった。

 少女の名は悠。願いの鎖を全身に巻き、鹿目まどかに次ぐ強大な力を持った人間。たった一桁生きただけの彼女は、己の悲劇に気づけなかった。
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