大抵の子供は自分の親を見て育っていく。世の中のことを教えてくれるのは親であり、子供が幼ければ幼いほど、正義は親であると信じている。だから、彼女には何の罪もない。もし気づいていたとしても、これまで手本にしてきたものを間違いだと認めるのは難しい。彼女に罪は無いし、彼女の親にも非はない。人間は知らないうちに道を誤っているものだ。全て、仕方のないことだったのだ。完全なる事故。そうとしかいいようがない。親の愛と願いを一身に背負って、途方もない努力に疲れた、その時だった。誰も悪くない。当たり前だった。余程精神が強くなければ、それの甘言から逃れるのは不可能。

 彼女の両親は近代では珍しいほどの信仰心を持っていた。他人に少々恐怖を与えるくらいだ。しかし彼ら自身は普通のことだと思っていたし、彼女は親を信じていた。そのまま、少しだけ奇妙な家族であったらまだ良かっただろう。二人の尊敬と畏怖の念は次第に形を変え、神を恐れ敬う者には相応しくない願いになった。醜い欲望を抱き全てを尽くして天へ向かうも、望みを叶えること以前に行き着くことさえ出来なかった。絶望した彼らは、まだ幼い自分達の子供に頼んだ。せめて、己の血を持つこの子だけでも、と。

「神のお傍にいきなさい。美しく清廉な精神を、そこで一層高めるのです。私達が貴方に望むのは、これだけよ、悠」

 母にそっと抱き締められ、父が優しく髪を撫でる。彼女は信じている。常に自分を守り、諭してくれた両親を、心から慕っている。

 彼らの異常に気づけるほど、彼女は成長していなかった。また、彼らの願いを叶えるには、己の動機が純粋でないといけないなど、思いもよらなかった。ただがむしゃらに心を抑え、欲望を殺し、たったひとつの願いの為に生きてきた。年端もいかぬ少女には重すぎる願いだった。行き詰まり、苦痛に泣いたある夜。やさしい悪魔は、愛らしく、害など全く無いような風貌で現れる。

「ねえ君、僕と契約して魔法少女になってよ」
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