よくよく思い出してみれば、誰かから助けを請われたことも感謝されたこともなかった。私はいつだって道具だった。みっともなく縋って、愛される子になろうと戦って、結果、残ったものは朽ちかけの身体だけだ。最早恨むことが良いのか駄目なのかもわからない。天上に仕えたいと、願ったのが間違いだったか? ――でも、美しいと感じたんだ。欲しいと思った。私が望むものを全て持ち合わせた人。……あの清輝の根源を知りたかった。
「わたしは、魔法少女です。願いの代償として魔女を倒します」 『では、その邪悪な瘴気は何だ?』 「……わかりません」
何百、何千もの天使達が、私を取り囲んでいる。 あのジーンズの大天使も例外ではなくて、今日ばかりは携帯も弄らず、この場を静かに眺めていた。
『やはり、容易く人間を入れるのは良くない』 『この者に、裁きを!』 『闇の力を操る、堕ちた人間よ』
イーノックは無表情だった。目が合う。眉間に皺が寄り、それを隠すように俯いてしまった。
ああ、なんだ。やっぱり、どこも同じなんだ。 神だけは受け入れてくれる、なんて。……馬鹿みたいだ。
「は……はは……そっかあ、そうなのかぁ……」
手首のソウルジェムが、じわりと黒を滲ませた。
「そうだよね、当たり前だよ。誰も、手放しで褒めてくれない。普通だよね、わからないのは怖いから」
黒が水晶を埋めていく。こぽり、小さな音に気づく者はいない。
「天界だって、夢も希望もないんだ、ね」
ごぽ、
○
目を覚ました悠は、依然とはまるで違った眼をしていた。雰囲気そのものが濁っているような気もする。大丈夫かと声をかけようとしたが、先に彼女が口を開いた。
「堕天した方々はお戻りになりましたか?」
堕天使。そういえば、エレキゼルが数人の天使に運ばれていたのを見た。きっとまた天使に戻れたのだ。
「ああ。だから……その、安心して休んでいてくれ」
冷たい大理石の床に膝をつき、細く傷だらけの腕を取る。栄養の足りていない爪は罅割れていて、胸が締め付けられた。
「そうしたいのは山々なんですが……」
己の無骨な手のひらが、そっと握り返される。
「多分、お別れをしなければなりません、イーノック様」
意味深な言葉に思わず息を飲み、反論しようと息を吸い込む。まさか死ぬとでも言うのか、と。 しかし、見つめた瞳は自分の後方を見据えていた。 けいたい、を片手に持ち、軽薄にも見える笑いを湛えた大天使。
「……神から質問があるそうだ、悠」
少女は、ゆっくりと微笑んだ。 | |
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