よくよく思い出してみれば、誰かから助けを請われたことも感謝されたこともなかった。私はいつだって道具だった。みっともなく縋って、愛される子になろうと戦って、結果、残ったものは朽ちかけの身体だけだ。最早恨むことが良いのか駄目なのかもわからない。天上に仕えたいと、願ったのが間違いだったか?
 ――でも、美しいと感じたんだ。欲しいと思った。私が望むものを全て持ち合わせた人。……あの清輝の根源を知りたかった。

「わたしは、魔法少女です。願いの代償として魔女を倒します」
『では、その邪悪な瘴気は何だ?』
「……わかりません」

 何百、何千もの天使達が、私を取り囲んでいる。
 あのジーンズの大天使も例外ではなくて、今日ばかりは携帯も弄らず、この場を静かに眺めていた。

『やはり、容易く人間を入れるのは良くない』
『この者に、裁きを!』
『闇の力を操る、堕ちた人間よ』

 イーノックは無表情だった。目が合う。眉間に皺が寄り、それを隠すように俯いてしまった。

 ああ、なんだ。やっぱり、どこも同じなんだ。
 神だけは受け入れてくれる、なんて。……馬鹿みたいだ。

「は……はは……そっかあ、そうなのかぁ……」

 手首のソウルジェムが、じわりと黒を滲ませた。

「そうだよね、当たり前だよ。誰も、手放しで褒めてくれない。普通だよね、わからないのは怖いから」

 黒が水晶を埋めていく。こぽり、小さな音に気づく者はいない。

「天界だって、夢も希望もないんだ、ね」

 ごぽ、







 目を覚ました悠は、依然とはまるで違った眼をしていた。雰囲気そのものが濁っているような気もする。大丈夫かと声をかけようとしたが、先に彼女が口を開いた。

「堕天した方々はお戻りになりましたか?」

 堕天使。そういえば、エレキゼルが数人の天使に運ばれていたのを見た。きっとまた天使に戻れたのだ。

「ああ。だから……その、安心して休んでいてくれ」

 冷たい大理石の床に膝をつき、細く傷だらけの腕を取る。栄養の足りていない爪は罅割れていて、胸が締め付けられた。

「そうしたいのは山々なんですが……」

 己の無骨な手のひらが、そっと握り返される。

「多分、お別れをしなければなりません、イーノック様」

 意味深な言葉に思わず息を飲み、反論しようと息を吸い込む。まさか死ぬとでも言うのか、と。
 しかし、見つめた瞳は自分の後方を見据えていた。
 けいたい、を片手に持ち、軽薄にも見える笑いを湛えた大天使。

「……神から質問があるそうだ、悠」

 少女は、ゆっくりと微笑んだ。
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