学校からの帰り道で、またあの男子達にからかわれた。もう言い返す気力も無くしていた私は、虚ろな目で鋭い言葉を受け止めていた。私が反撃しないのをいいことに、言葉はエスカレートしていく。流石にやれ切れなくなったとき、急に暴言が止んだ。空が曇りだす。ゆらゆらとどこかへ向かおうとする少年達に、既視感を覚える。――頬のあれは、魔女のくちづけ。 彼らの目的地へ先回りし、歪んだ空間へ身を投げた。身体、精神共に疲弊しきっているが、ここまでくると体が勝手に動く。殆ど本能で攻撃し、身を守った。 しかし、やはりきちんと理性が働いていないと十分に力を出せないのが悠の力だった。もちろん思うままに戦うことも出来るが、それだと魔力を浪費してしまう。 限界まで魔力の破片を飛ばしていた彼女は、紫水晶がちりばめられた巨大なネックレスの前に到達したその瞬間に意識を飛ばした。
目が覚めたときには、何もかもが終わっていた。怯えた目で此方を見る少年達。自分の頬に手をやると、ステンドグラスの欠片のような自分の羽があった。指にも、足にも、首にも、それらは生えていた。
○
「過去になにか、恐ろしい体験等したことはないか?」 「……ありません」 「うーん……例えば、悪魔のようなものを見た、とか」 「……残念ながら」
私は疑われているのだろうか。私が魔女を呼び寄せたのだろうか。私が悪魔なのか。滅されるべきは私か。イーノック様が感づくほどの私の瘴気は、禍々しいに違いない。 シュークリームなんて、久しぶりに食べる。口の周りにクリームをくっつけたまま真面目に話す彼が、いつか自分の命を奪うのかもしれない。そう思うと、魔女の力が怖かった。 枷が外れた私の形を見たら、イーノック様もうろたえるに違いない。もしそうなって奇形と称されても、この世界を救ったなら認めてもらえるだろう。 魔女はいつ現れる?
「ルシフェルは美味しいものを沢山知っているんだな」 「はい、本当に。物知りな方です」
口に広がる甘い香りに気分が悪くなったが、やっとのことで飲み込んだ。 | |
|