教室に入る。自分の机を見た。何も、無い。
引き出しも、ナシ。下駄箱もなかった。
どういうことだろう。
授業中。いつもと変わらない。何も無い。
ちら、と横を見る。白く細い指が黒板の文字を書き写していた。
放課後。部活に向かおうとしたところを引き止められた。もちろん、神崎さんに。
心臓がバクバクする。何か、言われるのだろうか。
「悠ちゃん、私ね、一番最初に告白してくれた人と付き合うの。どう? 良いと思わない?」
「……いいんじゃ、ないかな」
指先が冷たい。強烈な不快感で胃がむかむかする。
返事を聞いて満足そうに頷いた神崎さんは、「それじゃあお先に」と言って教室を出ていった。
なんとかしなければ。私が、なんとかしなければ。
私なら大丈夫って、言ってくれたんだから。
神崎さんより一足遅れてコートに着いた。部室に入ろうとして、やめた。神埼さんとレギュラーの一部がいたのだ。
「雪乃ちゃんはほんまえらいなぁ、悠より来るの早いやん」
「そんなことありません、普通です」
「謙虚ですね、神崎さんは」
「かわいいし」
「悠とは大違いだな!」
ああ、そうか。容姿だ。頑張って綺麗になれば、私を見てくれるかもしれない。
「あ、遅いぞ悠! 新米マネに仕事やらせんなよな!」
「ごめんなさい、すぐやります」
部室から出てきた岳人先輩に軽く怒られて、急いで神崎さんの元へ向かった。
何が待っているかも知らずに。