「ジロー」
「んー……」
「私、どうすればいいかなあ」

神崎さんにマネージャーの仕事を教えて、部活が終わって、さあ帰ろうとしていた時に、見つかることのなかった芥川くんを発見した。どうやら部長は樺地くんに探させようとしなかったらしい。

夕方なのにぐっすり寝ている彼は、随分幸せな夢を見ているらしい。ほんのり微笑を浮かべていた。かわいい。

「神崎さんっていう、すっごいかわいい子がマネージャーになったんだけど……ちょっと大変なことになっちゃったんだよね」

あの後、痺れを切らした神崎さん本人がR陣を、あのR陣を一喝して黙らせてしまった。
それで、跡部部長は完全に興味を持ってしまった。部長ともあろう人がテニスより恋愛を優先させてしまったらどうなるか、本人が一番良くわかってるはずなのに。
神崎さんはかわいい。かわいいけれど、かわいいだけじゃない。誰もが無意識に惹かれてしまう魅力がある。
そう、誰もが。
……下唇が痛い。無意識に噛んでしまっていたらしい。


『悠ちゃん、あなたには勿体無い場所だね、ここ』

ドリンクの説明をし終えた時。背後から感じる空気が変わって、振り向いた矢先に言われた。
意味を理解する前にその甘い甘い顔が迫ってきて、思わず呼吸を止めた。

『私、悠ちゃん嫌い。あなたのもの全部奪ってあげる』


「……悠? どうしたの?」
「ああ、起きたんだ。もう部活終わっちゃったから帰らないと駄目だよ」

無理やり笑顔を作って、震える肩を両手で抑えた。別に嫌がらせされたわけでもないのに、なんでこんなに怖いんだろう。なんでこんなに悲しいんだろう。ああ、怖い、嫌だ。

「よくわかんねーけど、悠なら大丈夫だC」

頭をぽんぽんと叩かれ、顔を上げれば笑顔の芥川くんがいた。

「……ありがとう」
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