ミルクティーに似たその髪を一束掬い、人差し指と中指に絡めた。彼女は気にする風もなく文字を書き続けている。
 不意に自分の存在がひどく矮小なものに思えて、美しい彼女に問いかけた。

「わたし、死んだほうがいいのかな」

 新しいわけではないその言葉に、彼女はいつも動揺する。難解な単語を綴っていたペンが動くのをやめ、ぽとりと倒れた。此方からは見えないけれど、長い睫毛は二回ほど上下に動き、その後どこまでも透明な、水晶の涙が溢れ出す。彼女のそれを初めて見た者は、暫し呼吸を忘れてしまう。それほどのものなのだ、彼女の泣き顔は。

「置いていかないで」

薄桃の唇はそれだけ呟いた。首が、肩が、震えている。

「美しいね、月子は」

 敢えて返事はせず、彼女を褒めた。一日一回は言う言葉だ。それを聞くだけで、彼女は目を伏せる。「そんなことないよ」春風のように耳を掠めた音は、快と不快を織り交ぜた苦しい感情を生み出す。彼女は、ほんとうに綺麗だ。

「そんなことない。わたし、きたない」

 小さな鈴が震えたといってもいい、可愛らしい声。彼女は、完璧すぎるのだ。完全は綺麗じゃない。彼女の悲しみが誰かの空に虹をかけ、彼女の不快が私に充足をもたらす。そのくらいが、丁度良い。

「みんな私を綺麗と言うわ。そんなことないの。本当に、そんなことない。悠、貴方わかって言ってるんでしょう? 貴方だけは、わかってくれるでしょう?」

涙ながらの懇願に、応えようとは思わなかった。もしここで彼女を醜いといったなら、私の放った言葉のナイフは彼女を微笑ませるだろう。

「綺麗ね、月子」



甘い砂糖なんていらない



♪ナイフ/arthur
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