久しぶりの陸に年甲斐も無くはしゃいでしまい(まあ皆もだけれど)、気がついたら暗い森の中に迷い込んでいた。誰の名前を呼んでも応答は無い。歩き回るうちに日は傾き、森は完全な闇に閉ざされてしまった。

「だっ……誰かいませんかあ」

 呟くように言えば、それに応えるかのように木々がざわめく。一陣の風が上着の裾をはためかせた。少し、寒い。

「あったかく、しよう」

 悠とて一端の海賊だ、火くらい起こせる。時間はかかるが。
 一時間半ほどかかってようやく小さな焚き火を起こし、ため息をついてから座り込む。考えることは、もちろん仲間達のこと。

(みんな、どうしてるかな)

 もし私がいないことに気づいてなくて、普通にご飯食べてたらどうしよう。……結構傷つくなあ、それ。
 本日二回目のため息をつき、膝の間に顔を埋めた。泣いたらいけないと、呪文のように繰り返しながら。

「……ガルルル」

 ふいに唸り声がした。いや、まさか。焚き火だってしてるし。

「ヴヴ……」

 反射的に顔を上げた。金に輝く瞳と目が合う。鋭い牙と牙の間から垂れる涎が、地面に黒い染みを作っていた。苦労して起こした焚き火は、ほとんど消えかかっている。

「……ひっ」

 毛むくじゃらの足が一歩近づき、獣特有の匂いが鼻をついた。助けを呼ぼうとするも、恐怖に喉を塞がれ声が出ない。空気に似た悲鳴が薄く漏れる。やばい、やばい。

「ガウ!!」

ギッと目を瞑り、襲ってくるだろう痛みを覚悟した。

「バカかお前」

 聞き覚えのある声と共に獣の呻き声。キン、と刀を鞘に収めた男は、悠がよく知る人物だった。

「火だって時間たちゃあ消えんだろーが」
「ゾッゾゾゾゾッ……ゾ、ロ」
「見つけたからには帰りたいが、生憎道がわからねぇ。今夜は野宿だ」

 手際よく火を起こすと、ゾロは欠伸をした。金のピアスが揺れる。わざわざ穴を開けるなんて、痛いだろうに。ゾロは強いから大丈夫なのかな。いや、でもナミも開けてた気がする。……みんな、強いんだなあ。
 ふと、お礼がまだだったことを思い出す。胡坐をかいて座っている彼を見た。目を瞑っている。寝てしまったかもしれない。

「ありがとう」

 見た目はものすごく怖いけれど、誰にも負けないくらい優しいのだ、ゾロは。返事は期待せず、万感の思いを込めて呟けば、低い声が返ってきた。

「……おう」



これからがいいところ



(己を信じて眠る少女に、やっぱり手なんか出せなくて)


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