「しかし、最近は良くないニュースしか見ないな」
「そうだねえ」

 海藤くんとは同じクラスだ。友人のお節介で、一緒に帰ることになった。感謝したいけどしたくない。だって、今日は寝癖がひどくて変な髪形になってしまっているのだ。海藤くんにだらしがない女だと思われるのは避けたい。
 ふわふわの猫っ毛は柔らかそうだ。かき回したくなったけれど、勿論しない。石鹸の香りが鼻を掠めて、思わずその元を目で探した。どうやら髪の毛かららしい。少し目線を下げると、真っ直ぐ前を見る両目があった。
 西日に照らされた顔はほんのり赤面しているようにみえて、少しだけ見惚れる。と、そのつり目がこちらを向く。思いがけない行動に、顔に熱が集まった。

「高橋さんはいつもひとりで帰っているのか?」
「うん」

 それきり会話が続かない。私が切ってしまっているのは分かっているけれど、なにしろ隣に彼がいるというだけでガチガチに緊張してしまうから仕方ない。ああ、顔が熱い。手のひらに汗が滲む。

「ね、海藤くんの家ってどこらへんなの?」

 なんとか話題を捻り出したけれど、言った後で後悔した。まるでストーカーじゃないか、私のばか。でも海藤くんは真面目だから、ちゃんと答えてくれるはず。

「……その、」

 あれ、困ってる。私には聞かれたくなかった、のか。どうしよう。少し悲しいけれど、それ以上に彼を困らせたという事実が重くのしかかる。

「あの、言いたくなかったら別に」
「いや、そういうわけではないんだ。僕が勝手にやったことであって、その、高橋さんが気に病まないでほしい」
「? なんのこと、」
「その、僕の家はあっちだ」

 あっち。すっと指された方向は、私の家とは正反対である。
 一瞬歩みと呼吸を止めた。

「……ご、ごごごごめんなさい! もう、もうここでいいよ! ありがとう、ごめん!」
「違うんだ、僕がやりたくてやったことでっ、いや、高橋さんが一緒に帰りたくないというなら僕はっ……そのっ」
「そんな、むしろ一緒に帰れて嬉しいっていうか、……あ」

 本音が零れ出てしまった。分かってしまっただろうか、うわ、さいあく。目が熱くなってきて、鼻の奥がつんとした。

「そうか、なら良かった」

 柔らかい声が誰のものか分からなくて、一拍置いたあとに海藤くんの声だと気づいた。……というか、ばれてない?

「最近は不審者が多いから、少し心配だったんだ。ちょうど高橋さんの友人から君を送ってほしいと言われて、その、僕は、本人さえ良ければこれからも、と思って」

 私は、海藤くんの顔をみた。俯いた顔から表情は見えなくて、ただ赤く染まった耳だけがあった。



まばゆい



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